オフィスの幅広いニーズに対応できる高性能RC床工法矩形大開口付きPCaPC小梁"ホールビーム"にベーシックタイプを追加

■ 概 要

三井住友建設株式会社(東京都中央区佃2-1-6 社長 則久 芳行)は、環境に配慮するとともに機能性・居住性を高めた高品質な鉄筋コンクリート造(RC造)のオフィスビル"E-Comfortオフィス"を展開しています。

このE-Comfortオフィスの基幹となる構造技術として、矩形の大開口を複数有し、梁の最端部まで設備配管を通すことのできるプレキャスト・プレストレストコンクリート※1(PCaPC)大スパン小梁"ホールビーム"を既に実用化しています。

このたび、梁の幅を全長にわたって薄く均一として合理化することによりコストダウンを実現した"ベーシックタイプ・ホールビーム"を新たに開発し、構造のラインナップに加えました。

これにより、設備ダクト計画や天井デザインの選択自由度を確保しながら低コスト化を可能としたことから、弊社では工期やコスト面で事業リスクを低減できるメリットのある鉄筋コンクリート(RC)造オフィスビルの営業展開を積極的に推進していく方針です。

■ 背 景

オフィスビルは、フレキシブルで効率的な執務空間を生み出すために、柱のない大空間を作りやすい鉄骨造(S造)による建築が一般的です。S造はH形鋼の梁に空調などの設備ダクトを通すための開口を多数設けることが可能であることから(写真-1、図-3)、オフィスビルに適した構造形式であるとされています。

しかしながら、鋼材価格は経済情勢の影響を受けやすいために、S造は調達面や経済性の面で事業計画上の予想し難いリスクが比較的大きいというデメリットがあります。

一方、RC造は無柱空間が造りにくく、梁の開口についても、数や大きさ、位置に制限があり、オフィスビルには不向きとされてきました。その反面、RC造は材料の調達が比較的容易であり、コスト変動も小さいため、工期やコスト面で事業リスクを低減できるというS造にはないメリットがあります。

このような特性を踏まえ、弊社ではRC造超高層住宅で培ったプレキャスト(PCa)工法、橋梁分野で実績豊富なプレストレストコンクリート(PC)技術を融合することでRC造の技術的課題を解決し、梁に矩形大開口を連続して設け、梁の最端部まで設備配管を通すことのできる大スパンPCaPC小梁"ホールビーム"を既に開発しています。

これにより、S造並みの大空間と自由度の高い設備ダクト計画を両立するRC造オフィスビルの構築を可能としました(図-2、図-4)。

"ベーシックタイプ・ホールビーム"は、この"ホールビーム"の適用範囲や設計自由度を確保しながら低コスト化を実現するために技術開発を進めてきた新しい構造メニューです。

■ ホールビーム とは

ホールビームとは、梁の全長にわたり連続した矩形の大開口を配し、梁端部にテーパーを設けることで、梁の最端部まで設備配管を通すことができるようにしたPCaPC製の小梁です(図-1)。特徴は、梁の最端部にも設備配管を通すことができるように、梁端部に船首のへさきのようなテーパーを設けていることで、断面をやや膨らませた変断面構造です(図-1)。そこで、このホールビームをテーパータイプ・ホールビームと呼びます。

構造形式は、上弦材・下弦材とこれらを繋ぐ束材から構成されたフィーレンディール形式 ※2です。本体の材料に高強度コンクリートを用い、梁の下側の下弦材にプレストレスを与えることで、S造の梁並みの大スパンや大きな開口を実現しました。

■ ホールビーム の特徴

テーパータイプ・ホールビームは、以下のような特徴をもっています。

  • フィーレンディール構造の形状的な特徴である連続した矩形の大開口を有し、小梁全長に占める開口長さの総和の割合(開口率)は約60%に達します。これによりS造と同等以上のダクトルート ※3を確保できます。
  • 梁の最端部に船首のへさきのようなテーパーを設けているため、梁の最端部にも設備配管を通すことができ、あらゆるダクトルートに対応できます。
  • 高強度コンクリートにプレストレスを与えることで断面の薄肉化と大スパン化(想定スパン16m以上)を可能としています。
  • 開口の割合が大きく軽量であるため、運搬・揚重などの施工性が向上します。
  • PCa部材であるため、S造と同等の工期での施工が可能です。
  • 一般的なPC鋼より線を用いてプレストレスを与えているため、通常のプレストレストコンクリート工場での製作が可能です。
  • 場所打ちコンクリート床や各種合成床工法(ハーフプレキャスト合成床※4およびデッキプレート合成床※5など)との組み合わせが可能であるため、床組の選択肢が拡く、低コスト化が図れます。
  • RC系の床組であるため音や振動の障害に対して集合住宅並みの優れた居住性を確保しています。また、耐火被覆が不要であることから、構造体そのものを仕上げとしたデザイン性の高い天井の構築も可能となります。

■ 新たに開発した ベーシックタイプ・ホールビーム とは

新たに開発した"ベーシックタイプ・ホールビーム"は、梁の幅を全長にわたって薄く均一として合理化することによりコストダウンを実現したホールビームです。

テーパータイプのように梁端部にテーパーを設けておらず、梁を全長にわたって等断面化することによって、型枠形状や鉄筋配置の単純化ができ、テーパータイプ・ホールビームの基本的な特徴に加えて、さらなるコストダウンを可能にしました。

なお、梁の最端部にも設備配管を通す計画の場合には、一方の端部のみをテーパーのあるホールビームとすることもできます。

■ 今後の展開

三井住友建設では、環境に配慮するとともに機能性・居住性を高めた高品質な鉄筋コンクリート造(RC造)のオフィスビル"E-Comfortオフィス"の基幹となる構造技術として、"テーパータイプ・ホールビーム"に続いて新たに"ベーシックタイプ・ホールビーム"を開発しました。

RCオフィスビルの大きな無柱空間と自由度の高い設備ダクト計画を可能とする"ホールビーム"の低コスト化が達成できたことから、環境に配慮するとともに機能性・居住性を高めた高品質な鉄筋コンクリート造(RC造)のオフィスビル"E-Comfortオフィス"の営業展開を積極的に推進していく方針です。

※1 プレキャスト・プレストレストコンクリート:工場や現場構内でPC鋼材によってプレストレス(圧縮力)を与えた鉄筋コンクリート造の部材をあらかじめ製造すること

※2 フィーレンディール構造:ラーメン橋の一種であるフィーレンディール橋に代表されるように、上弦材・下弦材に直交して腹材(束材)を設けた構造

※3 ダクトルート:設備ダクトの通り道

※4 ハーフプレキャスト合成床:工場でスラブ下半分の型枠兼用のコンクリート床版を製作し、現場でスラブ上半分のコンクリートを打設して一体化させる鉄筋コンクリートの合成スラブ

※5 デッキプレート合成床:コンクリート床の型枠および床構造の一部として用いられる薄鋼板(デッキプレート)とコンクリートを合成した床スラブ

 

<お問い合わせ先>

三井住友建設広報室【お問い合わせフォーム】

リリースに記載している情報は発表時のものです。


図-1 ホールビームの種類

図-2 ホールビーム(テーパータイプ)の設置イメー

図-3 S造のダクト貫通状況

図-4 ホールビームのダクト貫通状況

写真-1 S造オフィスにおける設備ダクトの設置状況

写真-2 ホールビームの性能確認試験

写真-3 ホールビームの端部ディテール

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