Ⅰ. 気候変動に関する方針

1. 三井住友建設における気候変動の位置づけと基本方針

三井住友建設は、経営理念に「地球環境への貢献」を掲げ、常に人と地球に優しい建設企業の在り方を求め、生活環境と自然の調和を大切に考えています。2018年度には環境方針"Green Challenge 2030"を制定し、総合建設会社として2030年度までに取り組むべきKPI(目標)を設定しました。

 

環境方針"Green Challenge 2030"

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2021年度にはCO2排出量削減目標を改定し、SBTi(Science Based Targets initiative)の「1.5℃基準」に整合した「2050年カーボンニュートラルに向けたロードマップ(5. 指標と目標を参照)」を策定し、取締役会にて定期的に進捗状況について監督しています。2023年12月、当社は、当社グループの2030年温室効果ガス削減目標(1.5℃水準)について、SBT(Science Based Targets)の認定を取得しました。

当社の気候変動への対応を加速するため、2021年度より各本部にサステナビリティ推進組織を設置すると共に、組織横断の「SX(Sustainability Transformation)推進プロジェクト」を創設し、2022年度は計4回のSX推進プロジェクト会議を実施し、各本部における取組を推進しました。

気候変動は当社にとってリスクである一方、機会でもあります。「中期経営計画2022-2024」では、サステナブルな社会の実現に寄与する事業の創出・推進体制を強化する方針を示し、方針の実現に向けて事業創生本部を新設し、今後3か年で投資総額(400億円)の30%以上をサステナビリティ関連(脱炭素、省エネルギー、長寿命化、再利用関連の技術開発、再生可能エネルギー事業、等)に投資する計画です。気候変動に関するリスクを回避・低減する施策にスピード感を持って取り組むことはビジネス機会の獲得にも繋がると確信しており、持続可能な社会の実現と当社の持続可能な成長の両立を目指します。

 

当社グループのこれまでの気候変動に対する取り組み

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Ⅱ. TCFDが推奨する開示項目に対する三井住友建設の取り組み

1. TCFDについて

TCFDは、金融安定理事会(FSB)により、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討する目的で設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース」です。TCFDが2017年に公表した「最終報告書(TCFD提言)」の中では、企業が任意で行う気候関連のリスク・機会に関する情報開示のフレームワークが示され、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」について開示することを推奨しており、当社はTCFDにて推奨される開示項目に沿って情報を開示しています。2021年10月にはTCFD付属文書が改訂され、「戦略」および「指標と目標」に関する開示推奨項目が更新されています。

2. ガバナンス

(1) サステナビリティ推進体制

気候変動を含むサステナビリティ施策*は、取締役会による監督の下、代表取締役社長が委員長を務めるサステナビリティ推進委員会で審議し、重要な事項については経営会議での審議を経て、取締役会で決議します。2021年度には、取締役会による実効性の向上および監督機能の強化を目的として取締役会事務局を設置しました。

各本部にサステナビリティ推進組織を設置し、経営企画本部長(常務執行役員)がリーダーを務める組織横断のSX推進プロジェクトを創設し、気候変動を含むサステナビリティ施策の立案、展開、進捗管理を行う体制を整えています。

2022年度は開催された取締役会17回の内、13回でサステナビリティ関連の内容を含む議題(2050年カーボンニュートラルに向けたロードマップ進捗状況、SX推進PJ報告、人権DD結果報告、等)が付議、報告されました。

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* サステナビリティ推進施策 :
気候変動を含むサステナビリティ関連の方針や目標の設定、進捗状況の管理を含みます

(2) 業績連動報酬の導入

半数以上の委員を社外役員で構成する指名・報酬諮問委員会の協議を経て、取締役(社外取締役を除く)及び執行役員を対象として、中期業績や気候変動を含む非財務指標に連動する業績連動報酬制度を導入し、2022年7月から運用を開始しました。

3. 戦略

三井住友建設では、気候変動が当社に与えるリスクと機会を把握し、その影響を検討するために、4つの事業(土木、建築、海外、新領域)を対象にシナリオ分析を実施しました。

(1) シナリオ分析の前提

気候変動に関するリスクは、「移行リスク(主に政策リスク)」と「物理リスク(主に自然災害リスク)」に分けることができます。2022年度には、従来使用していた「2℃未満シナリオ」を「1.5℃シナリオ」へと見直し移行リスクが最大化する「1.5℃シナリオ」と、物理リスクが最大化する「4℃シナリオ」の2つのシナリオを想定した分析に取り組みました。各シナリオの前提条件は、各国際機関等が公表している将来的な気候予測や、日本政府が策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」等に基づいて設定しました。リスクと機会が影響を及ぼすと考えられる期間は、短期、中期、長期の3つの時間軸を想定しました。

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(主なシナリオの情報源)

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【1.5℃シナリオ】

1.5℃シナリオは、カーボンニュートラルの達成へ向けた厳しい環境規制が導入され、環境関連技術の開発・普及が進展するシナリオです。世界の温室効果ガスの排出量は削減傾向となり、物理リスクは低く、移行リスクが高い想定です。具体的には、2050年時点で世界はカーボンニュートラルを達成しており、建築(新築・既存)はZEB化され、中高層建築の木造化が普及し、発注者は低炭素な資材・施工法を評価し、CO2 配慮公共調達を行っていると想定しています。

【4℃シナリオ】

4℃シナリオは、厳しい環境規制の導入は見送られ、世界の温室効果ガスの排出量は増加傾向の一途をたどり、自然災害が頻発するシナリオです。物理リスクが高く、移行リスクは低い想定です。具体的には、2050年時点では、建築(新築・既存)のZEB化は十分に普及せず、革新的な技術(CCS、水素、等)の開発は遅れ、自然災害が増加する一方、防災インフラの整備や自然災害の復興需要が増加すること等を想定しています。

※ CCS(Carbon dioxide Capture and Storage、二酸化炭素の回収・貯留):
発電所や化学工場などから排出されたCO2 を、ほかの気体から分離して集め地中深くに貯留・圧入すること

(2) 気候変動に関するリスクと機会の識別

シナリオ分析に基づき、重要な気候変動に関するリスクと機会の要因、そこから想定される財務的影響の概要を、下表のとおり整理しました。

1.5℃シナリオではZEB/ZEH建築の普及等による利益増加が見込めることから、営業利益が増加するという結果になりました。

また4℃シナリオにおいても、現在既に進めている対応策を踏まえると、大きな財務影響は見られないと評価しました。

2030年の営業利益に与える影響評価結果(1.5℃シナリオ)

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2030年の営業利益に与える影響評価結果(4℃シナリオ)

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気候変動によるリスク

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気候変動による機会

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(3) シナリオ分析に基づく対応策の検討

気候変動による16の財務影響の内容を整理し、今後取り組むべき方向性として機会の獲得に繋がる7つのテーマと、リスクの低減・回避に繋がる5つのテーマを特定しました。今回特定したこれらのリスクと機会については、「中期経営計画2022-2024」に反映し、具体的な施策を実行中です。

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4. リスク管理

(1) 気候変動に関するリスクを識別・評価するプロセス

2020年度に、当社が取り組むべきマテリアリティの特定を行いました。当社にとっての重要度、ステークホルダーにとっての重要度を検討した結果、気候変動課題は当社が優先的に取り組むべき課題の一つであるとの結論に至りました。 マテリアリティの特定については、「マテリアリティの特定」をご参照ください。 今後、他のリスクと比較した気候関連リスクの相対的重要性を示す予定です。

(2) 気候変動に関するリスクを管理するプロセス

気候変動に関するリスクの特定は、サステナビリティ推進委員会が行います。気候変動に関するリスクの評価は、各事業における気候変動要因を特定した上で、1.5℃シナリオ、4℃シナリオそれぞれにおける将来の規制・社会・技術・気象条件等の変化を把握し、財務への影響度を検討し対応策へ反映させます。また、気候変動に関するリスクについては、企画部が所管する全社のリスク管理プロセスに統合しています。自然災害などの物理リスク、環境規制の強化に係る移行リスクについても管理の対象として設定しています。

5. 指標と目標

環境方針"Green Challenge 2030"の脱炭素関連の目標を、2021年度に策定した「2050年カーボンニュートラルに向けたロードマップ」に合わせて見直しました。

  • Scope1+2のCO2排出量の削減(排出量を2020年比で50%削減)
  • 再生可能エネルギー事業の推進「設備容量:150MW以上」
  • Scope3のCO2排出量の削減(排出量を2020年比で25%削減)

としています。CO2排出量削減目標についてはSBT(Science Based Targets)イニシアチブの基準「1.5°C目標」に沿って改定し、新たにScope1、2、3に対する目標値を設定しました(SBT認定については今後申請予定です)。Scope2については、当社および関係会社の作業所および常設事業所(本支店オフィス、PC工場等)の電力をグリーン電力に切り替えます(2025年度まで)。

2050年カーボンニュートラルに向けたロードマップ

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「中期経営計画 2022-2024」において、当該期間のサステナビリティ関連投資額 120億円以上という目標を設定しています。さらに気候変動をはじめとする環境問題への対応、少子高齢化や深刻な建設技能労働者不足などの社会課題を解決するための事業に要する資金及びリファイナンスへの使途を目的として、2022年6月にサステナビリティボンド(第2回無担保社債)を発行しました。

※サステナビリティボンド
環境関連目標に貢献する事業(グリーンプロジェクト)や社会的課題の解決に貢献する事業(ソーシャルプロジェクト)に要する資金を調達するために、国際資本市場協会(ICMA)が定めるグリーンボンド原則、ソーシャルボンド原則およびサステナビリティボンド・ガイドライン、環境省が定めるグリーンボンドガイドライン、金融庁が定めるソーシャルボンドガイドラインに則って発行される債券です。

(1) CO2排出量

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2021年度はScope1、2のCO2排出量の第三者検証を受審しました。

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2022年度からはScope3のCO2排出量についても第三者検証の受審に取り組む予定です。

(2) 削減貢献の実現施策

2030年までに実質的なカーボンニュートラルを実現するための取り組みを推進します。取り組みのひとつである再生可能エネルギー設備容量(MW)については、以下の目標を設定しています。

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(3) サステナビリティ関連投資額

「中期経営計画2022-2024」では、3か年で投資総額(400億円)の30%以上をサステナビリティ関連(脱炭素、省エネルギー、長寿命化、再利用関連の技術開発、再生可能エネルギー事業、等)に投資する計画です。2022年度の主な実績は以下の通りです。

  • 年間エネルギー収支ゼロ『ZEH-M』を実現した社員寮が完成
  • 国内初となる実用化を目指した洋上での浮体式太陽光発電の技術実証
  • 浮体式洋上風力発電プロジェクトの事業性評価への参加とその成果について
  • 「Cool Factory」で工場を涼しく
  • 中高層木造建築構法「P&UA構法」が日本建築センターの個別評定を取得
  • 水上太陽光発電事業で当社初のオフサイトコーポレートPPA事業を開始
  • 環境省「令和4年度地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に 「採卵鶏ふんを単一原料としたエネルギー回収技術の開発」が採択
  • 新たな再生可能エネルギー発電事業計画の認定について
  • プレキャストコンクリート部材製造工場のCO2排出ゼロに向けた取り組み

(4) サステナビリティボンドの発行

気候変動をはじめとする環境問題への対応、少子高齢化や深刻な建設技能労働者不足などの社会課題を解決するための事業に要する資金およびリファイナンスを使途とするサステナビリティボンドを2022年6月に発行しました。

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サステナビリティボンド・フレームワークに対する第三者評価として、株式会社日本格付研究所より「JCRサステナビリティボンド・フレームワーク評価」の最上位評価である「SU1(F)」を取得しています。

(5) ICP(Internal Carbon Pricing)

CO2削減への貢献が期待できる投資案件の評価に使用するICPを設定しました。ICPの設定にあたっては、IEAが発行するWorld Energy Outlookを参考とし、円換算時は前年度決算時の為替レートを採用し、毎年見直します。

2023年度のICPは77.7$、10,380円としています(1$=133.53円)。

その他、環境関連データについては、「環境経営活動データ」をご参照ください。

環境方針に基づく目標設定については、「環境方針」をご参照ください。

マテリアリティに関するKPIについては「マテリアリティ」をご参照ください。

Ⅲ. SX推進プロジェクトの取り組み

2021年度は本店各本部及び国際支店所属の社員が参画し、10WG(ワーキングループ)が気候変動関連の課題に取り組みました。2022年度は本店各本部、国際支店及び東京建築支店の社員が参画し、10WGで課題に取り組みました。

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以上

2023年4月6日更新