cr2023_mssage_head.png

はじめに

2022年度における当社グループの業績は、現在施工中の国内大型建築工事において多額の工事損失を追加計上したことなどにより、2期連続の赤字決算となりました。株主の皆さまをはじめ、多くのステークホルダーの皆さまに多大なるご心配とご迷惑をおかけすることになりましたことを深くお詫びいたします。

さて、当社は、事業環境の急激な変化や戦略の進捗状況を踏まえ、2023年5月に建築部門の大幅な業績悪化を受けた追加施策を策定し、これらを反映させて「中期経営計画2022-2024」の見直しを行いました。

新たに策定した方針として、国内建築事業においては、受注量を大幅に抑制し、高水準で推移している手持ち工事の消化を進め、適切な施工体制の確立に取り組む一方、堅調に推移している国内土木事業および海外事業については、引き続き着実な展開を図ります。そして、中期経営計画の最終年度となる2024年度と、さらに3年後の2027年度の連結売上高水準を同程度と設定し、この間に安定的な収益を創出できる事業体制の再構築を進めていきます。

2023年度の業績は、売上高は概ね前期並みとし、営業利益は黒字へと転換する見込みです。財務面では、資金収支の改善、政策保有株式の縮減などによる資産のスリム化を進めることで、健全な財務体質の早期構築を目指し、業績回復に向けた経営基盤の強化を図っていきます。

業績回復に向けた新たな方針

最優先課題として、国内建築事業の立て直しに注力

cr2023_mssage_01.png

業績回復に向けて、最優先課題として国内建築事業の立て直しに最注力します。

損益悪化の主要因となっている国内大型建築工事については、本店を中心とした特別対応チームを設置し、施工全般に対する支援や技術的な指導を実施しています。毎週、現場・特別対応チーム・支店・本店をつなぐ定例会議を行っており、継続的課題の対応フォローや、新たに発生する問題についても早期に解決できる体制を整えているほか、私自身も毎月現場に足を運んで状況を確認しています。今般、外部の有識者に参画していただき、新たに調査委員会を設置して、客観的な立場からの助言などを得ることにより、原因究明と再発防止策をより確実なものとし、さらなる損失発生を防止していきます。

国内建築事業全体の利益改善に向けた改革としては、逼迫する施工体制を改善するための施策を進めるとともに、本支店によるバックアップなど、現場支援体制を再構築していきます。また、今回の業績悪化の要因の一つには、受注量の確保を優先するあまり、受注時における見積や設計、施工の検討が十分に徹底されていなかったことが挙げられます。こうした問題を改善するために、厳格な受注審査を行うための判定会を新設し、受注プロセスにおけるガバナンスの強化を図っています。さらに、受注から竣工までの各段階において、採算性を最優先とした目標管理を徹底していきます。

ここしばらく、国内建築事業においては、利益改善が何よりも重要なテーマとなります。利益改善に向けた改革にリソースを集中させるため、一時的に受注量を大幅に抑制し、手持ち工事を着実に進行させていきます。一方、市場に目を向けると、老朽化などにより建て替え時期を迎える建物も多く、企業の設備投資も復調傾向にあるなど、足元の事業環境は堅調であると感じています。今回の業績悪化を機に抜本的な改革を進め、収益力向上のための体制を再構築していきます。

過去最高益を達成し、好調に推移する国内土木事業

国内土木事業については、2022年度に過去最高益を達成するなど、堅調に推移しています。国内トップクラスのシェアを持つPC橋梁をはじめ、高速道路橋の大型リニューアル工事である床版取替工事において超高耐久床版※1 を開発するなど、業界屈指の技術力は高く評価されています。今後も競争力を維持して優位性をさらに強化するとともに、トンネルやシールドなどの利益生産性の高い分野にも注力します。当社の成長を支えるコア事業として、「さらなる質の向上」を目指して着実な事業展開を進めていきます。

  • ※1PC鋼材の代替としてアラミド繊維を束ねた材料を使用し、超高耐久を実現したプレキャスト床版(Dura-Slab®)

成長ドライブとして位置付ける海外事業における展開

当社の成長ドライブとして位置付ける海外事業についてはコロナ禍による影響からの回復が鮮明で、2022年度の海外事業は大幅な増収増益を果たし、売上高は過去最高の水準を確保しました。現在、アジアを中心に14カ国※2で事業を展開しており、国内外4拠点にHDC(グローバル人材開発センター)を開設してローカルコア社員や経営幹部の育成に力を入れるなど、中長期的な視点に立ったグローバル戦略を進めています。2022年度からは、シンガポール現法の社長にローカル幹部を登用しています。

国内の土木系エンジニアをアジアの国々に直接派遣するなど、プレキャストを中心とした技術の海外展開にも積極的に取り組んでいます。国内で培った技術や経験を強みに、世界の国々でも高品質な工事を追求し、競争優位性を高めていきます。また、2022年2月に子会社化したシンガポールの海洋土木系会社、AntaraKoh 社との連携を深め、大型橋梁工事における競争力の強化や受注機会の拡大、さらには海洋土木市場への参入などの取り組みを進めていきます。

海外事業は、2024年度に連結売上高1,000億円を目標としており、さらに2030年には2,000億円を目指しています。

  • ※2 2022年度現在

中長期的な成長を見据えて

「社員が当社で働くことの幸せを実感できる会社」を目指して

私たち建設会社にとって、「人」こそが最大の財産であることは言うまでもありません。私の理想とする企業像は「社員が当社で働くことの幸せを実感できる会社」「会社は社員や関係者が幸せになるために存在している」と考え、社員一人ひとりの想いを理解するために、2021年4月の社長就任以来、多くの支店や現場に足を運び、社員の生の声に耳を傾け、経営に反映するという姿勢で取り組んできました。

このような対話を重ねる中で、私なりに感じたことがいくつかあります。その一つは、多くの社員は当社で働くことにプライドと自信を抱いていること。これは当社の長い歴史の中で培われてきた実績や伝統によるものだと思います。しかしその一方で、社員が自らの夢を実現することや、そのために行っている一つ一つの仕事に対しては、必ずしもやりがいを感じているとは言い切れない状況がしばしばあることにも気づかされてきました。その要因の一つが、建設業ならではの、強い統制を利かせながら、上意下達で業務をこなしていく仕事のやり方であると感じています。業績回復に向けて新たな一歩を踏み出そうとしている今、こうした仕事のスタイルを変えていく絶好の機会であると考えています。

そうした背景から、今年6月に、「全社員が存分に『活躍』し、『効率的』な働き方で、より良い『結果』を出す 社会と共に持続的な成長を遂げていくためにK3な企業」を目指すことをコンセプトとした、組織横断的な業務改革プロジェクトである「K3プロジェクト」を立ち上げました。全社的な課題(業務効率化、働き方改革、フラットな企業風土づくりなど)に対し、全社から意見、改革案を収集して、改革計画を策定し、短期間で実行することにより、社員一人ひとりが自らの発想で、これまでになかったアイデアや業務の進め方に、果敢に、しかもスピード感をもって主体的にチャレンジできる環境を整えていきたいと考えています。

最前線の現場を起点に、働き方改革と業務改革の二つの改革を推進

「働き方改革」においては、福利厚生制度の充実や多様な働き方のための制度づくりなど、さまざまな施策を進めています。なかでも早急に取り組むべき課題と考えているのが、最前線である現場での改革です。現場の社員たちが安全や品質、工程、原価の管理といったコア業務に集中できるように、本支店によるサポートなどの施策を進めています。

しかし、これらの課題は逼迫する業務の一部を内勤に移管すれば解決できるというものではないと思います。先程の業務改革プロジェクト「K3プロジェクト」などを通じて、業務の在り方を根本から改革していくために議論を 重ね、それを踏まえたうえでDXを推進することで、改革を加速させていこうと考えています。2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されます。すべての社員が、ワークライフバランスを実感できるよう、仕事に取り組める環境づくりに注力していきます。

多様な人材がやりがいをもって活躍できる風通しのよいフラットな企業風土づくり

cr2023_mssage_02.png

「人材の育成」については、多様な人材が活躍できる環境づくりに引き続き力を注いでいきます。人材の確保では、国内における外国籍人材の採用に加えて、海外大学からの直接採用などにも取り組んでいます。課題となっている女性活躍の推進では、女性管理職を育成するためのプログラムを立ち上げました。このようなダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に係る取り組みを幅広く展開していくために、2022年度にD&I推進部を新設しています。若手の育成に関しては、自発的・主体的に考え社内外に発信し行動して自ら結果につなげる力を向上させることを目的に「コア人材育成研修」を導入しました。また、社員が意欲を持って働ける環境を整えるために、処遇改善についても継続して実施しています。

人材基盤を継続的に強化していくためには、「社員エンゲージメントの向上」も重要な課題です。社員がやりがいをもって仕事に取り組めるように、一昨年度から「社内公募」による人事異動制度を始めています。今年度からは、新事業のアイデアを広く社内から募集する「社内アイデア公募制度『Plus One Challenge』」をスタートさせ、新規事業のシーズとしてこれから育てていきます。また、風通しのよい風土づくりの一環として、社長の私に直接意見を伝えられる仕組み「オピニオンルーム」※3も導入しています。

多様な価値観を持つ社員一人ひとりがやりがいをもって多様な働き方をしていくためには、風通しのよいフラットな企業風土づくりが欠かせません。社長としてその先頭に立ち、今こそ改革を推進していきたいと考えています。

  • ※3 社内ネットワーク上に設置した社長への意見箱。2021年10月の設置以来、100を超える意見が寄せられています

社会と共に持続的な成長を遂げていくために

サステナビリティを新たなビジネスチャンスへ、新規事業の展開

当社が社会と共に歩み持続的な成長を遂げていくためには、サステナビリティへの取り組みがとても重要な経営テーマとなります。特に建設業ではビジネスプロセスの多くの場面で環境課題と密接に関わります。設計や施工はもちろん、環境負荷の少ないサスティンクリート®※4 などの原材料から、ZEB/ZEH※5 といった施設の運営まで、多様なプロセスにおいてサステナビリティへの取り組みを進めています。

また、サステナビリティをビジネスチャンスと捉えた新規事業も積極的に展開しています。なかでも新たなビジネスとして芽吹きつつあるのが水上太陽光発電事業です。当社では、水上設置型の太陽光発電用フロートを独自に開発し、既に全国6カ所で自社運営しています。2022年11月には、当社としては初となるオフサイトコーポレートPPA事業※6 を、大阪府泉佐野市の農業用ため池で開始しました。さらに東京湾で、国内初となる洋上太陽光発電の実証実験も予定しています。

このほか再生可能エネルギー分野では、浮体式の洋上風力発電にも取り組んでいます。仏国BW Ideol社が国内で進める事業性評価プロジェクトに参加し、コンクリート製浮体基礎の建造において、市場の期待に応える経済性および工期の実現が可能であることを確認しました。

これら新規事業の創出は、当社が中長期的な成長を果たしていくために欠かすことのできない事業戦略です。今後も、資本効率を意識しながら、成長が見込まれる分野については集中的に投資を行っていきます。

  • ※4 材料に由来するCO2排出量を40%~最大90%削減する環境配慮型コンクリート
  • ※5 Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)/Net ZeroEnergy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略称。消費する一次エネルギーをゼロにすることを目指した建物
  • ※6 発電した電気を送配電ネットワーク経由で電力需要施設に送る電力購入契約

ステークホルダーの皆さまの信頼に応えるために

当社は、国内建築事業における多額の工事損失によって業績悪化に陥りましたが、国内土木事業および海外事業は順調に推移しており、サステナビリティ関連の新規事業についても積極的な展開を図っています。

また、ガバナンス強化の観点から、取締役会については、今年度から過半数の社外取締役を選任しており、取締役間の相互牽制機能を強化しました。加えて、経営会議についても、報告主体ではなく、議論中心に運営することで、活性化を図り、担当部門外の役員からの質問件数も増えるなど、自由闊達な議論の場になってきています。

今回、見直しした「中期経営計画2022-2024」の基本方針は、次期中期経営計画においても踏襲していきつつ、業績回復や業務改革の進展度合いを見ながら次なる成長を見据えた、より積極的な施策も打ち出していきたいと考えています。

先ほど企業風土のことにふれましたが、今回の業績悪化の遠因の一つに風通しのよくない組織体制面の影響などもあったのではないかと感じています。その意味でも、今こそが全社的な改革に踏み出していく時期であると考えています。「社員が当社で働くことの幸せを実感できる会社」。この理想の姿に向かって、社員の気持ちを一つにして改革を推進していきます。それが1日でも早い業績回復につながり、ステークホルダーの皆さまの期待にお応えすることだと信じています。皆さまには大変ご心配をお掛けしていますが、これからも厚いご支援を賜りたいと願っています。

2023年10月

代表取締役社長

近藤重敏