中高層木造建築構法「P&UA 構法」で二方向ラーメン架構を実現可能に
― 11階建て事務所のモデルプランで日本建築センターの構造評定を取得 ―
三井住友建設株式会社(東京都中央区佃二丁目1番6号 社長 柴田 敏雄)は、株式会社市浦ハウジング&プランニングを代表とする「P&UA(※1) 構法共同技術開発グループ」(※2) に参加し、GIUA(※3) を用いた二方向ラーメン架構に耐力壁を併用した11階建て事務所のモデルプランにおいて、一般財団法人日本建築センターの構造評定を2024年10月11日に取得しました。
評定を取得したモデルプランは、「GIUA」を用いた二方向ラーメン架構の一部に「シアリング・コッター耐力壁」や「ローリング・コッター耐力壁」を併用したもので、梁に設けるスリーブ付き継手やラーメン架構の梁端仕口の一部に「炭素繊維によるせん断補強」を用いることで、高耐力・高剛性・高靭性を実現しています。
(※1) Panel & Unbonded Anchorの略称
(※2) 技術開発者:㈱市浦ハウジング&プランニング、㈱織本構造設計、東急建設㈱、東レ建設㈱、戸田建設㈱、西松建設㈱、㈱長谷工コーポレーション、三井住友建設㈱
共同研究者 : 京都大学 五十田教授、近畿大学 松本教授、広島県立総合技術研究所林業技術センター
協力者 : アルファ工業㈱、内田技建、㈱ウッドワン、エイコー㈱、㈱キーテック、轡製缶㈱、㈱河本組、桜設計集団、㈱中東、藤寿産業㈱、藤田K林産技術士事務所、本間興業㈱、銘建工業㈱ (以上、五十音順)
(※3) Glued in Unbonded Anchorの略称
【構造評定を取得した11階建て事務所のイメージパース】
■ 開発の経緯
現在、我が国ではSDGsやESG投資の拡大を背景に、中高層木造建築への関心が高まっています。これまで、木造建築は耐震計算ルート1又はルート2(許容応力度設計)でほぼ全ての建物が設計されてきました。中高層木造建築物においては、ルート3(保有水平耐力)による耐震計算手法は未だ発展途上であり、脆性破壊を防止する靱性の確保や荷重変形関係のスリップ抑制、接合部の高剛性・高耐力・高靱性の確保などが課題となっています。
そこで、当技術開発グループでは、これらの課題を解決する新たな構法となるP&UA構法の開発に着手し、1期開発において一方向をGIUAを用いたラーメン架構、他方向を耐力壁架構とし、鉄筋コンクリ-トスラブを採用した「10階建て共同住宅」によるモデルプランの構造評定を2022年10月に取得しました(※4)。さらにこの度、2期開発にて自由度の高い空間の実現化を目指してラーメン架構を二方向に拡張させ、二方向ラーメン架構の一部に耐力壁を併用し、鉄筋コンクリ-トスラブを採用した「11階建て事務所」をルート3、Ds=0.3で設計したモデルプランにおいて、日本建築センターの構造評定を取得しました。
(※4) 中高層木造建築構法「P&UA構法」が日本建築センターの個別評定を取得(2022年11月21日)
【二方向ラーメン柱梁接合部の構成】
■ モデルプランに用いた要素技術
本評定では、二方向のラーメン架構を可能とする接合部ディテールを有し、先に開発した「GIUA」や「シアリング・コッター耐力壁」に加えて、「ローリング・コッター耐力壁」、梁に設けるスリーブ付き継手やラーメン架構の梁端仕口に用いる「炭素繊維によるせん断補強」の2つの要素技術を採用しています。
[1] 「ローリング・コッター耐力壁」(㈱市浦ハウジング&プランニングと㈱織本構造設計にて特許出願済)
鉄骨の枠柱の間にLVLやCLTなどの木質パネルを左右に並べ、鉄骨枠柱とパネル間及びパネル同士の間に設けた切り込みに、L型に折り曲げ加工した鋼材(コッター)を組み合せ差し込んで接続した耐力壁です。耐力壁の上下は鉄骨梁としており、この鉄骨梁と耐力壁は鉄骨プレートとボルトにより接続します。
地震時には、建物に生じる水平力によって左右に並べた木質パネルがそれぞれ回転するロッキング現象が生じるため、鉄骨枠柱とパネル間及びパネル同士に差し込まれた鋼製コッターが上下逆方向に変形し、地震力を負担することにより地震エネルギーを吸収します。
この構造により、大変形時でも木質パネルを損傷させず、コッター部分が変形してエネルギー吸収する機構となっているため、一般的な木質耐力壁に比べて優れた変形性能とエネルギー吸収性能を有しています。耐力壁に求められる必要なせん断耐力はコッターの数量によってコントロールすることができます。
[2] 「炭素繊維によるせん断補強」(㈱市浦ハウジング&プランニングと㈱織本構造設計、東レ建設㈱にて特許出願済)
ラーメン架構の木梁端部の仕口や梁のスリーブ付き継手に炭素繊維板を貼付し、炭素繊維シートを巻き付ける補強を施すことで、木材の曲げ補強及びせん断割裂防止による急激な耐力低下の抑制を図ります。
梁のスリーブ付き継ぎ手補強においては、RC造のスリーブ開口基準(梁せいの1/3まで)を上回る、梁せいの45%までのスリーブ開口を設けられることを構造実験で確認しており、RC造を超えてS造と遜色ないスリーブ開口の設置が実現可能です。
なお、炭素繊維補強については、耐火性能試験や実物大クリープ試験を実施しており、長期的な安全性も確認済みです。
【構造評定を取得した架構のイメージ図】
【構造評定を取得した要素技術のイメージ図】
【実大実験の様子 : ローリング・コッター耐力壁】 |
【実大実験の様子 : 木梁端部仕口の炭素繊維補強】 |
■ 今後の展開
今後は、本構法を用いた中高層木造住宅やオフィスを積極的に提案・展開していくとともに、当社の木質構造技術であるプレストレスト木質構造(※5)との融合を進め、環境に優しいサスティナブルな社会の実現に貢献してまいります。
(※5) 三井住友建設ホームページ 技術・ソリューション:プレストレスト木質構造
<お問い合わせ先>
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