#35 矢熊大橋
~ ある日の社内にて ~
- 「(ガサガサガサ...)年度末のレイアウト変更、大変だ~」
- 「全然終わらないですね。あれもこれも片づけないと...。あれ?あそこの棚に置いてあるものは何ですか?」
- 「何かの模型?この白いハシゴみたいな...橋?」
- 「なぜ2つに分かれてるんだろう?しかも上下に動きますよ!」
- 「お二人ともどうしたんですか?橋の模型で遊んでいるんですか?」
- 「遊んでないですよ~!!この模型なんだろうな~って思って...」
- 「これは『ロアリング工法』というアーチ橋の架設工法の模型です」
- 「ロアリング工法?」
- 「ちょうど伊豆にこの工法で施工した橋があるので、一緒に見に行きませんか?実際に見ながら、みっちり説明しますよ~」
- 「お橋見!行きたいです!是非お願いします!!」
今回の橋ガールは・・・
~ お橋見当日 静岡県伊豆市にて ~
- 「『道の駅伊豆月ケ瀬』で待ち合わせってことだったけど、ハカセはもう来てるのかな」
- 「あっ!ハカセ発見!!」
- 「ハカセ!おはようございます!」
- 「おはよう、少し早く着いてしまったので、案内板を見ていました。ここらへんの観光名所などが載っているんです」
- 「本当だ!桜の季節ですから、いろいろと行ってみたい場所がありますね」
- 「すぐそばにお目当ての橋はあるので、早速お橋見しましょうか」
橋の概要
- 名称
- 矢熊大橋
- 位置
- 静岡県伊豆市
- 構造形式
- 上路式固定アーチ橋
- 橋長
- 171.0m
- 架設方法
- メラン巻き立て工法
(メラン材ロアリング工法) - 竣工年
- 2018年
- 「これが矢熊大橋です。この橋は伊豆半島を縦断する天城北道路の最南端に位置していて、狩野川をまたぐ橋です。ここより南のほうには、あの名曲の『天城越え』で有名な天城峠や浄蓮の滝があって、さらに南に行くと河津桜で有名な河津や伊豆下田などの観光地があります」
- 「うわ~大きい!!」
- 「迫力満点ですね!!綺麗な川も流れてますね!」
- 「そうなんです。狩野川はとても綺麗な川でアユ釣りが盛んなところです。そんな綺麗な川なので、川のなかに橋脚などの構造物が無い上路式アーチ橋になっています」
- 「こんなかたちの橋を上路式アーチ橋っていうんですね」
- 「そうです。アーチリブと呼ばれる弓型の構造部材の上部に車両が通る桁がある形式のことを、上路式アーチ橋と言います。この形式の橋は、急峻な谷地形や海峡、河川を跨ぐ橋として採用されることが多いです。以前の橋ガールで訪れたことがある 御岳橋(#08)、外津橋(#10) も同じ形式の橋です」
- 「なるほど。やっぱり綺麗な川のなかに橋脚はつくらないほうがいいですよね」
- 「橋の完成後ももちろんですが、橋をつくるときも出来るだけ川に入らないようにしたほうがいいです。アーチ橋はアーチリブの下が深い渓谷や、海や川だったりして、施工するときに下側が使えない場合が多いです。そのような難しい施工に対応するために色々な施工方法が開発され、この橋ではロアリング工法が採用されました」
- 「おっ、それが私たちの見つけた模型だったんですね」
- 「そうです。ロアリング工法というのは、中央で2分割したアーチリブを川の両岸にある橋台上で鉛直方向に組み立てて、PCケーブルなどを使って所定の位置まで降下・回転させたあとに、中央部を繋げてアーチリブを完成させる架設工法です。この橋では、メラン材という仮設の鋼部材をロアリング架設するので、メラン材ロアリング工法と呼ばれています」
- 「あの模型が実際の施工だとどんな感じになるのかな」
- 「これが施工中の写真です。1枚目はメラン材を鉛直方向に組み立てた写真です。2枚目は片側のロアリング架設が完了した写真で、3枚目は中央部を繋げてアーチリブか出来上がった写真です」
【メラン材の鉛直方向組立て】
【ロアリング架設(片側のロアリング完了)】
【ロアリング架設完了】
- 「すごいダイナミックですね。確かに模型でみた動きをしてる。でも今の完成した橋にはメラン材が見えないんですけど...」
- 「メラン材は、あくまでもコンクリートのアーチリブを作るための支保工みたいなものです。この後、移動作業車を使ってメラン材をコンクリートで巻き立てました」
- 「メラン材のロアリング架設から、アーチリブのコンクリート巻き立て、上側の桁を作るまでの全体の手順はこんな感じです」
- 「なるほどですね。どんどん橋のかたちになっていきますね。でもわざわざメラン材でアーチリブをつくって、さらにコンクリートで巻くなんて大変そうなんですが、最初からコンクリートでつくったほうがよいのでは?」
- 「いいところに気付きましたね。ロアリング架設するときにはPC鋼材などのケーブルで支えながら回転・降下させますが、その後方にケーブルを固定させるために巨大なコンクリートブロックを設置する必要があります。でもこの橋では後方に県道があったので、橋脚を支えにしてロアリング架設したのです。コンクリートだと重量が大きくて橋脚が壊れてしまうため、重量が10分の1にできる鋼部材としたのです」
- 「だから鋼部材だったんですね。つくるときも、出来たあとも川に優しい橋なんですね!アユも大喜びですね!!」
- 「あの模型がこの綺麗な川を守るための工法だとは...すごい!」
- 「せっかくなのでもう少し近くでも見てみましょう」
- 「あっ、こっちには階段がついてますよ!のぼりたい~!!」
- 「なっしー、テンション上がりすぎですよ!(笑)」
- 「この階段は、将来の点検・維持管理のために点検者が歩いて行けるようにするための階段です。なので、残念ながらのぼったらだめですよ」
- 「そうなんですね、残念...のぼってみたかった...。でも点検することも考えてつくられているんですね」
- 「ハカセ、あそこに見えるパイプみたいなものはなんですか?」
- 「あれは道路上に降った雨用の排水管です。デザインを工夫して排水管が見えないようにしているんです」
- 「橋としてのデザイン性も兼ね備えているんですね!」
- 「綺麗な川を守りながらつくられた、細部までこだわりのある橋!素敵ですね!初めてお橋見しましたが、ひとつの橋にたくさんの思いが込められていることに驚きました!」
- 「私が前回お橋見した 浜崎黒目橋(#31)もアーチ橋でしたが、同じ形式でも架設する場所に適した工法が採用されていることに感銘を受けました!」
- 「ではそろそろ恒例のアレやりますか!!」
- 「そうだね!せーのっ!」
- 「ロアリングポーズです!!どうですか、ハカセ?」
- 「ロアリング架設の途中みたいでいいと思いますよ。(ちょっと伝わらないかもしれないですが...)」
- 「さて、まだ少し時間もありますので、このあたりの観光名所巡りもしてみませんか。さっき案内板を見ていて気になる場所がありました」
- 「ぜひ!」
~ 桜が満開の韮山反射炉 ~
- 「着きましたよ」
- 「わ~、桜が満開ですね!ガイドさんもいらっしゃるので色々と教えてくれそうですよ」
- 「反射炉って、金属を溶かして大砲などを鋳造する溶解炉なのですね。しかも、実際に稼働した反射炉として国内で唯一現存するものみたいです」
- 「ちょうど桜も見ごろでよい時期に来れましたね。橋のことも韮山反射炉のことも知ることができて、よいお橋見になりました。ではそろそろ帰りましょうか」
- 「はーい。今日はありがとうございました」
2022年4月6日
行った場所:矢熊大橋
河川を守りながら人々を繋ぐ橋
―つづく