スマートコンクリート(高靭性コンクリート)の実用化にめど
◎ ビニロン短繊維をPC工場のプラントで最大3%(体積割合)混入することに成功
◎ せん断耐力は、普通鉄筋コンクリート梁の2倍程度に増大
◎ エネルギー吸収性能は、普通鉄筋コンクリート梁の5倍以上に増大
◎ コンクリート片の剥落も抑制可能
◎ コンクリートの高靭性化によって、構造物のコスト縮減、省力化、高耐久性化が可能
三井住友建設株式会社(東京都新宿区荒木町13-4 社長 清 昇)は、従来のコンクリートに比べて高い靭性能を有するスマートコンクリートを開発してきましたが、このたびその実用化にめどが付きました。
従来のコンクリートは、圧縮に強く、引張に弱いという欠点を有していましたが、今回実用化に向けて開発したスマートコンクリートは、繊維長30mmのビニロン短繊維を混入したコンクリートで、マルチプルクラッキング(ひび割れが多数分散すること)によってひび割れ幅の拡大が抑制され、コンクリート構造物の靭性能が飛躍的に改善されました。
従来のスマートコンクリートに関する検討はモルタルを主体としたものが多く、また、コンクリートの場合は短繊維の混入率が0.5%程度と少なく、配合調整なども室内で検証されており、大型構造物への適用という観点では実用化にはまだ遠い状況でした。
今回の開発、実用化に向けた検討は、当社と独立行政法人北海道開発土木研究所構造部 材料研究室、室蘭工業大学建設システム工学科 岸研究室、北海道大学大学院工学研究科 三上研究室が共同で行ったものであり、開発には2年前より着手していました。
室内での配合検討を繰り返し、最大3%のビニロン短繊維混入によってもファイバーボールができず、所用のスランプなどが確保可能な配合を決定し、今回、PC工場のプラントにおいてビニロン短繊維を混入して、大型の鉄筋コンクリート梁や鉄筋コンクリート版を製作し、配合調整が実用的に可能であることを確認しました。
また、室内実験でスマートコンクリートが所要の耐凍害性を有していることを確認しました。さらに、スマートコンクリートを用いた鉄筋コンクリート梁の静的・衝撃載荷実験を実施し、普通コンクリートを用いた梁と比較検討しました。その結果、スマートコンクリートを用いた梁は、静的・衝撃的にも優れた靭性能を有することが確認できました。
「スマートコンクリートの特徴」
スマートコンクリートの特徴は次の通りです。
(1) 優れたせん断耐力向上効果
・ 従来のコンクリートのように斜めひび割れが大きく開口しないので、せん断耐力が増大してせん断破壊しにくくなります。すなわち、容易にせん断破壊せず曲げ破壊を先行させることができます。また、配筋が煩雑なせん断補強筋量を少なくできます。
・ せん断耐力向上効果はビニロン短繊維の混入率に依存しますが、2%以上を混入した場合は、鋼繊維補強と同等以上のせん断耐力の増大が期待できます。
(2) 優れたエネルギー吸収性能
・ 衝撃的に荷重が作用する場合でも優れたエネルギー吸収性能を有し、普通コンクリート製のRC梁に比べて5倍以上の入力エネルギーに耐えることができます。そのため、橋脚や落石覆道などの靭性や耐衝撃性が必要な構造物に最適なコンクリートといえます。
(3) 高いコンクリート片剥落防止効果
・ ビニロン短繊維の架橋効果によって、コンクリートにひび割れが入ってもコンクリート片が剥落しにくくなります。したがって、鉄筋の腐食膨張時や外力による大変形時においてもコンクリート片が剥落しにくくなり、最近社会問題化しているコンクリート片の剥離・剥落事故を回避することができます。
(4) 施工性の改善
・ せん断耐力やエネルギー吸収性能が格段に向上しますので、せん断補強筋量やコンクリートボリュームを低減できる可能性があります。これは、施工性の改善および構造物の高品質化、コスト縮減にも繋がります。
(5) 高耐久性、軽量
・ ビニロン短繊維は鋼繊維のように腐食せず、重量増加がほとんどありません。また、ビニロン短繊維は、有機繊維の中でも付着抵抗性能に優れるため、高伸び特性を有効に活用することができます。さらに、所要の耐凍害性を確保できることが実験で確認されています。
(6) コスト縮減、LCC(ライフサイクルコスト)低減の可能性
・ ビニロン短繊維を1%混入することで、材料費は約16,000円/m3程度増加しますが、
せん断補強筋量の低減、断面寸法の縮減などで、イニシャルのトータルコスト縮減に繋がる可能性があります。また、剥落防止性能も高いことから、LCCを大幅に低減できる可能性もあります。
(今後の展開)
今後は、ポンプ圧送性などのより実施工に対応した検討を実施するとともに、コスト低減効果、LCC低減効果をより定量的に把握し、普及促進を図る予定です。同時に、橋脚や耐衝撃構造物などの大型模型にスマートコンクリートを適用し、その効果を定量的に把握する予定です。
図-1 ビニロン短繊維
図-2 実験結果
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