浜名湖の浄化に「干潟エコトーン」を創造

― 陸域・干潟・海域における生物循環浄化機能を利用した水質浄化方法 ―

三井住友建設(東京都新宿区荒木町13-4、社長 友保 宏)は、「浜名湖水質浄化技術の提案事業者募集」に応募し採用された『干潟エコトーン(※1)におけるビオトープの創造による生物循環浄化工法』の実証実験施工を平成15年5月末に実施。その後モニタリングを継続し、12月に第一回目の報告書をまとめました。
その結果、短期間ながら陸域では、植栽部における植物種類の増加と塩化物及び全窒素の半減、海域部では、竹炭気泡部における微生物の増加と塩化物や窒素の吸着が各々見られました。

■背 景
浜名湖は国道一号線・浜名バイパスに架けられた浜名大橋がまたぐ、約200㍍の幅で遠州灘とつながる汽水湖ですが、地形などの構造上湖内に流入した水は停滞しやすく、近年水質悪化が問題になっていました。このため静岡県は浜名湖水質浄化技術の提案事業者募集(※2)を行い、49の応募の中から当社をはじめとする15の案が採用されました。
このたび当社は、『干潟エコトーンにおけるビオトープの創造による生物循環浄化工法』の実証実験施工を平成15年5月末に行い、6月以降、毎月水質調査を実施。12月16日、それらをまとめて第一回目の報告書を静岡県(浜名湖浄化研究会)に提出しました。

■干潟エコトーン浄化工法の特徴
当社が実施している方法は、干潟を中心に「エコトーン」をつくり出し、陸域で行われる植物による浄化、干潟における食物循環による浄化、海域における竹炭による浄化などの生物循環浄化機能を利用して浜名湖の水質浄化を目指すものです。
このため、陸域に海浜植物(ハマエンドウ、ハマダイコン、シオクグ)等を移植して植物による栄養塩(※3)の吸収を行う一方、海水の浸透域に竹炭を埋め栄養塩を吸着します。また、干潟にアサリを放流してプランクトンを食物循環により浄化します。さらに、海域をネットで囲み、竹炭かごを吊して海水透過により栄養塩類の吸着を行います。

各種調査は、浜名湖の北部、引佐郡細江町の湖岸(幅20㍍、奥行き30㍍)を利用して実施中です。調査項目は、リン、窒素、COD(※4)、溶存酸素等の水質調査の他、底質調査、生物調査、植物調査などで、平成15年6月~平成17年9月までの2年4ヶ月間行います。今年度の目標は、基礎的な調査を行い、施設と水質の相関関係を見つけ出すことです。

■これまでの成果
1)竹炭およびネットの効果
竹炭の炭表面に着床する微生物が、投入後5ヶ月後に3百万個以上に増加、塩化物や窒素の吸着が認められました。また、5㍉メッシュのネットには目が詰まる程の窒素やリン酸を含む付着物が見られました。

2)植物の生育度と土壌
陸域に12種類を植栽したところ、9月16日までに92種を越える生育を確認、また、ヒガンバナをはじめ、ハマエンドウなどが咲き、湖岸の様子を変えました。植栽部分の土壌は、塩化物と全窒素が半減しました。

3)プランクトン、ベントス(※5)調査
動物プランクトンは、調査開始以降個体数が増加し、マキガイなども多く見られるようになりました。ベントス類は、実験区域内外の個体数はほぼ一定で推移しました。

■実験、今後の方針
今回の調査結果をもとに次のような改良を行い、実験を継続します。
1)3方向に張ったネットは干潮時にも海水が流入できる位置に設置するものとし、網目のの大きいものに変更する。
2)竹炭の設置数を増加し、吸着効果について検証を行う。
3)干潟の天地返しを行い、貝類の生息環境を整える。
4)陸域の植物による栄養塩の吸着効果を把握するため、1月毎に選択除草を行う。   

■まとめ
当社が実施中のこの方法は、大がかりな装置や運転エネルギーを必要としません。陸域・干潟・海域のそれぞれが持つ浄化力を回復させ、それらの相乗的な働きによって水質を浄化するものです。このため、短時間に水質の劇的な回復は期待できませんが、投入エネルギーが少なく、持続的で、自然のバランスを破壊することはありません。私たちは浜名湖の水質浄化のみならず、きれいな湖岸の景観を取り戻すことを望んでいます。

※1:エコトーン
生物の生息する異なった空間や環境のつながりを推移帯(エコトーン)という。陸域と水域が接する環境には、多種多様な生物が生息します。

※2:静岡県の「浜名湖水質浄化技術の提案事業者募集」で、当社は標記の技術の他に、「ハイグレードソイルコンソーシアム」構成企業の一員として「袋詰め脱水処理工法(エコチューブ)による猪鼻湖(いのはなこ:浜名湖北部にある枝湾)水質浄化実験」にも参加しています。

※3:栄養塩
燐、窒素、カリ、珪素など生物の生命を維持するうえで必要な主要元素とマンガン等
の微量元素で炭素、水素、酸素以外の主に塩類として摂られるものが栄養塩である。
最近の沿岸海域特に海水の交換が悪い内海など閉鎖性水域では、これらの栄養塩類が流入して水中生物が急速に増殖し水質が悪化する富栄養化が生じ、これによる赤潮や青潮が魚介類に多大の被害を与えている。

※4:COD ( Chemical Oxygen Demand )
化学的酸素要求量を示し、水中の有機物が化学的に分解されるときに必要な酸素量を酸化剤により測定したもの。CODの値が大きいほど水中の有機物が多く、水が汚れていることを示します。
河川における有機物による水質汚濁にはBOD(Biochemical Oxygen Demand)が、海域および湖沼ではCODが用いられます。

※5:ベントス(Benthos)
底生生物。海底に定着するか海底の砂泥に潜入、あるいは海底を這って生活している生物。海藻類、イソギンチャク類、ごかい類、さんご類、二枚貝類、エビ・かに類などがあり、有機物質を分解する能力を持つ。
ベントスに対し、海中に浮いて生活しているものをプランクトン(Plankton)という。


浜名湖水域浄化実証実験状況


地元小学校生徒との環境学習


地元住民への見学会開催

 

<お問い合わせ先>

三井住友建設広報室【お問い合わせフォーム】

リリースに記載している情報は発表時のものです。

一覧ページへ