地震対策への投資効果を説明するための地震リスク分析プログラムの開発

独立行政法人建築研究所、独立行政法人都市再生機構、(株)日建設計、(株)鴻池組、(株)竹中工務店、(株)ピーエス三菱、(株)フジタ、三井住友建設(株)、(株)ブリヂストン、(株)構造計画研究所、(株)一条工務店、大和ハウス工業(株)の12機関により組織される「地震リスク・マネジメント研究会」は、この度、建築物の地震リスク分析プログラムを共同開発しました。

このプログラムには最新のリスク分析手法が組み込まれており、簡単なデータ入力のあと数分間で、建物の地震リスクを計算することが出来ます。このリスク分析の結果に基づいて、新築建物の設計や既存建物の改修において、地震対策への投資効果を説明できます。

本プログラムには、地震リスク分析のために、日本全国の地震の発生確率モデルが内蔵されており、また、建物周辺の地震による地面の揺れ、建物の揺れ、被害額が計算されます。リスク分析の結果と併せて、これらの計算過程も提示できます。

「地震リスク・マネジメント研究会」の参加機関は、本プログラムをリスク・コンサルティング、耐震改修の普及/優先順位検討、免震住宅の普及促進、構造設計、研究業務など多方面に活用していく予定です。

(内容の問合せ先)
独立行政法人 建築研究所
住宅・都市研究グループ
高橋 雄司(たかはし ゆうじ)
電話: 029-864-6696(直通)
E-mail: takahasi@kenken.go.jp

 

[1] プログラム開発の目的

将来の大地震による被害を軽減するために、強度向上、制振(震)、免震などの優れた構造技術が開発されています。しかしながら、建物所有者がそれらの地震対策を施すには、費用負担が伴います。地震対策技術を普及させるためにも、建物所有者に対して、それらへの投資効果を合理的に説明する技術の開発が課題とされてきました。
この課題を解決するために「地震リスク・マネジメント研究会」は、地震LCC(Life-Cycle Cost:初期投資および将来の地震による被害額の合計)を地震リスクと捉えて、地震対策への投資効果を検証してきました。
その一環として、この度、簡単な入力かつ短時間で投資効果を分析するための簡易LCC分析プログラムを共同開発しました(図1)。

図1 LCCに基づく投資効果の説明
図1 LCCに基づく投資効果の説明

 

[2] 新しい地震LCC分析手法

従来の地震LCC分析手法は、地表面での「地震動強さ」(震度や最大地動など)に基づいて地震LCCを計算するものでした(1式、図2)。

LCC=(初期費用)
+∑(「地震動強さ」に対する被害額)×(「地震動強さ」の発生確率) (1式)

この従来手法では、震度などの「地震動強さ」という指標から、建物の被害額を推定していました(参考1)。「地震動強さ」は一つの数値であるために、地面の揺れの全体像を表現できません。そのため、(地面の揺れによって生じる)建物の揺れ、それによって発生する被害額を合理的に算出することが困難でした。

(a)「地震動強さ」に対する被害額
(a) 「地震動強さ」に対する被害額
(b) 「地震動強さ」の発生確率
(b) 「地震動強さ」の発生確率

図2 従来のLCC分析手法の概念図

以上の問題を解決するために、新しい地震LCC分析手法では、地震の根元である「断層破壊」に基づいてLCCを分析します(2式、図3)。

LCC=(初期費用)
+∑(「断層破壊」に対する被害額)×(「断層破壊」の発生確率) (2式)

この新しいLCC分析手法によれば、断層破壊、地震波の伝わり、地盤増幅、建物の揺れなど実際の物理現象をシミュレーションしたうえで、LCCを分析できます(図3(a))。(2式)の(「断層破壊」の発生確率)には、政府地震調査委員会や国土交通省などが発表している地震の発生確率(図3(b))をそのまま代入することが出来ます。

(a)「地震(a) 「断層破壊」に対する被害額
(a) 「断層破壊」に対する被害額
(b) 「地(b) 建物周辺の「断層破壊」とその発生確率
(b) 建物周辺の「断層破壊」とその発生確率

図3 新しいLCC分析手法の概念図

 

[3] プログラムの概要

本プログラムには、(2式)の(「断層破壊」の発生確率)を計算するために、国土交通省国土技術政策総合研究所が構築した、日本全国の震源モデルが装備されています。
(2式)の(「断層破壊」に対する被害額)を計算するために、建物周辺の各断層破壊から、建物位置での地面の揺れ(応答スペクトル)が計算されます。本プログラムには、日本全国について1km×1kmメッシュ毎の地盤データが格納されており、建物位置での地盤を考慮したうえで地面の揺れが計算されます。この地面の揺れと建物の構造モデルから、限界耐力計算によって、建物の揺れが計算されます。さらに、建物の揺れに基づいて、被害額が計算されます。
建物周辺の全ての断層破壊について、上記のように、地面の揺れ、建物の揺れ、被害額を計算します。被害額と断層破壊の発生確率を(2式)に代入することで、図1のような地震LCCおよび投資効果を計算することが出来ます。

 

プログラムの実行例

  1. 建物位置、階数、構造種別、再調達費用、地震対策方法、地震対策費用などを入力します(図4)。建物位置は、緯度経度入力、地図上でクリック、市町村名で選択の機能が装備されています。建物周辺の震源も表示でき、地震リLCC分析に考慮する震源の検索範囲も設定できます。
  2. 建物の構造モデルを入力します(図5)。一般的なデフォルト値も格納されています。
  3. 建物の被害モデルを入力します(図6)。一般的なデフォルト値も格納されています。
  4. LCC分析を実行します(図7)。考慮する震源の数が多いほど計算時間が長くなりますが、通常、ノートPCで1~10分程度です。
  5. LCC分析が終了すると、①で設定した検索範囲に入る震源が表示されます(図8)。これらの震源が全て、LCC分析に考慮されます。
  6. LCCおよび地震対策への投資効果が出力されます(図9上)。併せて、距離の近さが上位10位までの震源に対する地面の揺れ、建物の揺れ、被害額などが表示されます(図9下)。
建物概要入力画面
図4 建物概要入力画面(★建物位置、□プレート境界地震、-活断層)
建物の構造モデルの入力画面
図5 建物の構造モデルの入力画面
建物の被害モデルの入力画面
図6 建物の被害モデルの入力画面
地震LCC分析実行画面
図7 地震LCC分析実行画面
LCC分析に考慮された震源の出力画面
図8 LCC分析に考慮された震源の出力画面
LCC、視覚効果、各断層破壊からのシナリオ解析の出力画面
図9 LCC、投資効果、各断層破壊からのシナリオ解析の出力画面

 

[4] 各社担当者および連絡先

各機関の担当者および連絡先は以下の通りです。

機関名 担当者名 連絡先 (独)建築研究所 高橋 雄司 029-864-6696 (独)都市再生機構 小田 聡 045-650-0604 (株)日建設計 浅野 美次 03-5226-3030 (株)鴻池組 安野 郷 06-6244-3737 (株)竹中工務店 藤井 中 0476-47-1700 (株)ピーエス三菱 黒澤 明 03-4562-3050 (株)フジタ 中川 太郎 046-250-7095 三井住友建設(株) 谷垣 正治 0285-48-2611 (株)ブリヂストン 竹内 貞光 045-825-7543 (株)構造計画研究所 坪田 正紀 03-5342-1137 (株)一条工務店 穴原 一範 053-447-8344 大和ハウス工業(株) 平松 剛 0742-70-2181

 

参考1

地面の揺れの全体像と「地震強さ」
(a) 地面の揺れの全体像と「地震動強さ」
「地震動強さ」による被害額の算出
(b) 「地震動強さ」による被害額の算出

参考図1 従来のLCC分析における被害額の算出方法

 

<お問い合わせ先>

三井住友建設広報室【お問い合わせフォーム】

リリースに記載している情報は発表時のものです。

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