超高強度繊維補強コンクリート「サクセム」を開発、道路橋に初適用日本国内の技術と材料で強度180N/mm2を実現
鹿島、電気化学工業、住友電工スチールワイヤー、三井住友建設の4社は、強度、靱性においてこれまでのコンクリートの常識を覆す次世代の新材料「サクセム*」を開発し、このほど、道路橋に初めて適用しました。サクセムは特殊な鋼繊維を混入した超高強度繊維補強コンクリートで、通常のコンクリートの10倍もの曲げ強度を持ち、鉄筋による補強が不要となる夢の材料です。鹿島をはじめとする4社は、これまで培ってきた繊維補強コンクリート技術と超高強度コンクリート技術を発展させ、日本国内の技術と材料でこの次世代の材料「サクセム」を開発しました。このほど設計・施工技術を確立した上で、道路橋に初めて適用したものです。
*サクセム"SUQCEM:SUper high-Quality CEmentitious Material"(登録商標)
■サクセムの概要と特長
サクセムは特殊な鋼繊維を混入した超高強度繊維補強コンクリートで、設計基準強度は驚異の180N/mm2(普通コンクリートの5~8倍)、曲げ強度30N/mm2を実現しています。特殊鋼繊維の混入により引張応力を負担することができるため、構造物に鉄筋を配置する必要がありません。また、自己充填性が高く、耐久性に優れるため、部材を極限まで薄くすることができます。橋梁の桁部材に採用した場合、上部工重量を軽量化することができ、下部工を小さくすることができます。
サクセムは、プレミックス結合材、細骨材、特殊鋼繊維、減水剤及び水とで構成されます。プレミックス結合材の開発と2種類の長さの鋼繊維をブレンドして混入するという手法により、驚異的な構造性能と優れた施工性を効率的に実現しています。また、サクセムは非常に緻密な構造であり、内部に水がはいりにくく耐久性に非常に優れた材料です。このため、ライフサイクルコスト面で通常コンクリートと比較して有利と試算しています。
サクセムは2001年から04年にかけて材料開発を実施し、04年から、実構造物への適用検討を開始しました。実構造物への適用検討にあたり、実機プラントでの製造実験、実大部材の製作実験、実大部材の載荷実験、長期計測実験などを行い、材料の持つ性能、部材の構造性能、耐久性や施工性などを実証しました。こうした成果を受けて、サクセムは、「サクセム設計・施工マニュアル技術委員会(委員長;丸山久一 長岡技術科学大学副学長)」において、土木学会「超高強度繊維補強コンクリートの設計・施工指針(案)」に示される各種性能を満足し、同指針に準拠した設計・施工が可能であることを確認しています。
優れた流動性 |
補強用特殊鋼繊維 |
■道路橋への適用
サクセムは、05年11月に愛媛県西条市の道路橋「アクアタウン橋梁」の上部主桁に適用されました。
同橋は、サクセム製プレテンション桁13本で構成されており、工場で製作されたサクセム桁を運搬、架設したあと、間詰めコンクリートを打設、横締めPC鋼材で全ての桁を一体化させる構造形式です。本橋の場合、サクセム桁を採用することにより、従来の中空床版桁と比較して、桁1本あたりの重量を約35%減、主桁の全体重量も約26%軽量化することができました。桁の軽量化により運搬・架設設備費の軽減を図ることができるとともに、下部工の縮小が可能となり、経済的です。
「アクアタウン橋梁」に続き、熊本県多良木町の「増谷1号橋」でもサクセム桁を適用しました。増谷1号橋でも主桁全体の重量は従来のスラブ桁の約50%となり、死荷重を大幅に低減することができ、旧橋にはなかった保安施設(ガードレールと地覆)を取り付けることができました。
サクセム桁打設の様子 |
完成したアクアタウン橋梁 |
アクアタウン橋梁 上部構造比較
主桁本数 | 桁高 | 断面形状 | 主方向PC鋼材 | 桁1本当たり重量 | 全体主桁重量 | ||
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中空床版桁 | 13本 | 500mm | 閉断面 | 1S15.2 12本 | 8.2tf | 126.9t | 35%減 |
サクセム製桁 | 13本 | 450mm | 開断面 | 1S15.2 9本 | 5.3tf | 94.5t | 26%減 |
増谷1号橋 上部構造比較
主桁本数 | 桁高 | 断面形状 | 主方向PC鋼材 | 桁1本当たり重量 | 全体主桁重量 | ||
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スラブ桁 | 6本 | 325mm | 充実断面 | 1S12.7 10本 | 4.0tf | 25.4t | 47%減 |
サクセム製桁 | 5本 | 300mm | 開断面 | 1S12.7 3本 | 2.1tf | 12.7t | 50%減 |
■今後の展望
4社は、「サクセム研究会」を組織して実用化へ向けた各種開発及び検討を行ってきましたが、橋梁における実績ができ、設計施工マニュアルの整備が完了したことから、今後は、「サクセム研究会」を拡大して広く技術を公開し、サクセムの更なる普及、展開を図っていく方針です。
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