制震装置で石油タンクのスロッシングを抑制模型タンクと実大タンクで効果確認長周期地震動に効果大

三井住友建設㈱(東京都新宿区西新宿7-5-25 社長 五十嵐久也)は、このたび地震による石油タンクの液面揺動(以下、スロッシング)を抑制する制震装置「フローティングネット」を開発しました。石油タンクの内部に設置することでタンクの耐震性を向上させます。長周期地震動等による液面の揺れ防止対策(波高低減対策)として、既設および新設のタンクに適用することを提案していきます。

<背景>
2003年9月26日に発生した十勝地震では、苫小牧を中心に数多くの石油タンクの浮き屋根が大きな損傷を受け、結果として全面火災となった事例が見られました。これらの被害要因としては、地震の揺れに伴う内溶液のスロッシングやスロッシングを引き起こす数秒から数十秒のやや長周期の地震動が関係していると考えられています。長周期地震動の卓越周期がタンクのスロッシング周期に一致すると、液面の波高は共振現象により次第に高くなり、液の漏洩や浮き屋根の損傷を引き起こす大波へと成長することになります。石油タンクの損傷対策は、同種事例の再発防止の観点だけでなく都市防災上の観点からも近年重要な課題となってきています。

<タンクの構造>
一般の石油タンクは、おおまかに①浮き屋根式、②内部浮き屋根をもつ固定屋根式、③内部屋根をもたない固定屋根式の3つに分類できます。石油タンクの中でも①は大型、②③は小型のタンクに用いられる型式で、揮発性が高い油種には②が、揮発性が高くない油種には③が用いられます。また、①にはダブルデッキ型とシングルデッキ型の2種類があります。ダブルデッキ型は上下2枚の鋼板で屋根全面を浮き室にしたものであり、シングルデッキ型は1枚の鋼板の円周上などに浮き室を設けたものです。

<フローティングネット概要>
今回開発したフローティングネットは、フロート材と減衰材で構成されており、石油タンクの内部に設置されます(図A・図B:内部に浮き屋根がある場合は浮き屋根の下に設置されます)。フロート材の材質は、石油タンク内での火花発生防止の観点からアルミニウム合金としています。フロート材は、アルミニウム合金製のパイプ材を組み合わせたものであり、液体からの浮力によって浮遊しています。減衰材はフロート材に吊された枠材にネットを取り付けたもので、液体が網の目を通過するときの抵抗を減衰要素として利用しています。また、フローティングネットには浮き屋根とフロート材の接触による損傷を防止する技術やタンクの側壁への衝撃力を緩和する技術も取り入れています。構成部材が少ないため製作コストを削減することが可能であり、安価でありながら地震時の損傷発生を長期間にわたって防止することができます。

<フローティングネットの施工方法>
浮き屋根のある既存の石油タンクにおいては、浮き屋根を撤去することなしに改修工事を行うことが可能です。フローティングネットの構成部材は軽く、小さく分割可能な構造としているため、石油タンク側壁のマンホールから容易に搬入することができます。施工手順は3工程(①液体を排出して浮き屋根を下降させタンク底板と浮き屋根との間に作業空間を構築 ②分割された構成部材を側壁マンホールから搬入 ③構成部材を作業空間内で組立)と少なく短期間で施工可能です。

<実験による効果確認>
(1)模型実験
フローティングネットのスロッシング抑制効果を確認するため、弊社技術研究所の振動台を使い模型タンクでの振動実験を行いました。振動台の上に直径約3メートルの模型タンクをセットし、大型油圧ジャッキを用いて振動を与えました。タンクのスロッシングを最も引き起こす振動(共振時)を与えた結果、波高を最大で約1/8に低減できることを実証しました。また、2003年十勝沖地震において苫小牧で発生した地震と同様の波を模型タンクに与えた結果、地震による後揺れ抑制効果が大きいことがわかりました。
(2)実大実験
民間石油会社の協力のもと、内部浮き屋根をもつ固定屋根式タンク(直径15m、1,500kL程度)にフローティングネットを設置し加振実験を行いました。波の励起は人力または空気圧シリンダーにより内部浮き屋根を直接加振することとしました。その結果、小振幅(波高200mm程度)の波においてもフローティングネットを設置しない場合(浮屋根のみ)に対して約2倍の減衰効果があったことを確認しました。また、フローティングネットの設置工期は1日と非常に短く、施工性および実用性の高さを確認することができました。

<共同開発体制>
フローティングネットはアルミニウム合金にて構成されているため、株式会社住軽日軽エンジニアリング殿のご協力により製作を行いました。また、特殊な解析技術を要するスロッシング挙動解析や浮き屋根の応力解析にあたっては、神戸大学大学院中山昭彦教授のご指導を得て解析手法および解析プログラムの開発を行いました。

<今後の展開>
今後は、これまでの実験解析結果を詳細に検討し、設計法の確立や細部の検討など実用化に向けて技術力の向上に努める一方で、一般に広く適用可能な技術となるよう展開していく方針です。

<連絡先>
〒160-0023
東京都新宿区西新宿7丁目5番25号 三井住友建設株式会社
経営管理本部 総務・法務部 広報グループ 宇野嘉壽之
TEL:03-5332-7230 FAX:03-3365-7225

〒164-0011
東京都中野区中央1-38-1中野坂上ビル15階 三井住友建設株式会社 
建築管理本部 プラント部 松野秀夫
TEL:03-5337-1718 FAX:03-3367-5484

〒270-0132
千葉県流山市駒木518-1 三井住友建設株式会社 
技術研究所 建築研究開発部 谷垣正治
TEL:04-7140-5204 FAX:04-7140-5017

以 上

図A タンクへの設置状況
図A タンクへの設置状況

図B フローティングネットの概要 図1 浮き屋根式
図B フローティングネットの概要

(参考資料) フローティングネット概要説明書

1. タンクの構造
一般の石油タンクは、おおまかに①浮き屋根式(図1)、②内部浮き屋根をもつ固定屋根式(図2)、図③内部屋根を持たない固定屋根式(図3)の3つに分類できる。石油タンクの中でも①は大型、②③は小型のタンクに用いられる型式で、揮発性が高い油種には②が、揮発性が高くない油種には③が用いられる。①にはダブルデッキ型とシングルデッキ型の2種類がある。ダブルデッキ型は上下2枚の鋼板で屋根全面を浮き室にしたものであり、シングルデッキ型は1枚の鋼板の円周上などに浮き室を設けたものである。

図1 浮き屋根式
図1 浮き屋根式

図2 内部浮き屋根をもつ固定屋根式
図2 内部浮き屋根をもつ固定屋根式
図2 内部浮き屋根をもつ固定屋根式
図3 内部浮き屋根をもたない固定屋根式

2. フローティングネット概要
フローティングネットは図4(a)に示すように、タンクTに貯留された液体Lを覆う浮き屋根Rの下側に配置される。フロート材Fと減衰材Dで構成されており液体Lの増減に伴って上下に移動する。フロート材Fは減衰材Dを保持するものであって、液体Lからの浮力によって液体Lの上層部に浮遊している。フロート材Fは図4(b)に示すように複数の棒状要素を組み合わせてなる平面フレーム1と、減衰材5(図5)、支持部材3および衝撃緩和材4で構成されている。平面フレーム1は中心部材11と放射フレーム12と内周フレーム13と外周フレーム14で構成されている。

図4 フローティングネットの設置概要図
図4 フローティングネットの設置概要図

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図5 フローティングネットの詳細図

 

3. 各部材の仕様
(1)平面フレーム:

中心部材:A6063S-T5
放射フレーム:A6N01-T5(それぞれの荷重条件に応じて製作、押出成形品)
内周フレーム:A6N01-T5
外周フレーム:A6N01-T5
緩衝材(ゴムスペ-サー):耐油性に優れたもの・合成樹脂等、例えば、ニトリルゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム等。

(2)減衰材:SUS304メッシュ
(3)衝撃緩和材:ハニカムパネル(アルミニウム合金)
(4)吊り材・アングル材等:A6063S-T5
(5)取り付けボルト:SUS304

4. 施工方法
フローティングネットの構築方法は、(1)浮き屋根降下工程、(2)資材搬入工程、(3)組立工程の3つの工程からなる。((2)図6に示すようにタンクTに貯留された液体を排出して浮き屋根Rを下降させ、浮き屋根RとタンクTの底面との間に作業空間を確保する (3)タンクに設けられた点検口から作業空間Kの内部にフローティングネットを構成する部材を小分けにして搬入する (4)作業空間Kの内部で複数の棒状要素を組み合わせてタンクTの底面と平行な平面フレームを構築するとともに、棒状要素に減衰材を取り付けるなどして浮き屋根Rの下側にスロッシング抑制装置を構築する)

 

フローティングネット採用により、以下のような効果が得られる。

・ フローティングネットの平面フレームは個々の部材に分解することが可能となるので、側壁マンホールから容易に搬入し組み立てることができる。
・ 放射方向に沿って配置された放射方向フレームに減衰材を配置したので、振動方向が変わってもスロッシングを減衰させることが可能である。
・ フローティングネットの平面フレームは緩衝材や衝撃緩和材により、浮き屋根と既設側板との地震時の衝撃力を緩和することが可能となる。

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図6 フローティングネットの構築方法

 

<お問い合わせ先>

三井住友建設広報室【お問い合わせフォーム】

リリースに記載している情報は発表時のものです。

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