フリープラン対応大スパンフルプレキャスト床構工法

― 集合住宅大空間時代のニーズに応える床構工法の開発 ―

■ 概要

三井住友建設株式会社(東京都新宿区西新宿7-5-25 社長 五十嵐 久也)は、超高層鉄筋コンクリート構造建物における高品質・工期短縮・経済性などの事業主ニーズに応え、柱梁などの主要構造部に現場打ちコンクリートがほとんど存在しないオールプレキャストコンクリート工法を、従来より展開しています。このたび、プレキャスト化が困難と言われていた床を含めたフルプレキャスト施工法を開発し、石川島播磨重工業株式会社と三井不動産レジデンシャル株式会社発注による「アーバンドック パークシティ豊洲」(江東区豊洲二丁目)の新築工事で、実用化しました。

■ 背景

近年の集合住宅は、超高層化がすすむ一方、構造形式としては、耐久性・造形性・経済性・対風揺れ性能などにおいて優位性を有している鉄筋コンクリート造が増加しています。超高層建物にも事業工期の短縮が要求されているため、プレキャストコンクリート(以下PCa)工法が盛んに取り入れられています。三井住友建設では、既に、柱梁の主要構造部材に現場打ちコンクリートによる接合部をほとんど設けない、柱梁フルPCa工法(スクライム工法*1)を開発して、数多くの実績を有するに至っています。
一方、近年の超高層住宅の住戸平面プランには、間取りの自由度の要求や将来予想される全面的な内装の模様替えに対応するためSI(スケルトン・インフィル*2)の概念を導入した、柱梁のない大空間を有する計画が求められるようになってきています。

■ 従来技術

住宅の床をPCa化する場合は、床の下面を部分的にプレキャストにするハーフPCa合成床構工法を採用することが一般的です。床が大スパンとなる場合には、たわみを抑えるため床版にプレストレス*3を与えたり、床を中空化することにより、床の重量増大に対応しています。
しかし、これら既往のハーフPCa合成床構工法には、次のような課題がありました。

① 既往のハーフPCa床版では、経済性と量産化を図るために、PC鋼線*4を直線的に配置する方式としていますが、この直線配置ではプレストレスの効果が全断面で一様となり、大きなプレストレスの必要のない端部でも応力が大きくなるため、効率的にプレストレスを利用できないという課題がありました。

② 最近では、バリアフリー対応で床の仕上げ面をフラットにするために、設備配管の通る水場ゾーンの床面のレベルを下げて、床本体に段差を設ける構造が採用されています。このような段差床にハーフPCa床版を用いる場合には、段差部で2枚の床版を接合しなければならないためにPC鋼線が不連続となり、施工性・経済性を損なうという課題がありました。

③ ハーフPCa合成床構工法では、床の構造が工場製作のPCa部と現場打ち部とに分離されるため、中空率を大きくすることが難しく、さらに前述の床段差がある場合は、段差部の構造補強も難しくなるという課題がありました。この段差部を一体としてプレキャスト化する場合には経済性が損なわれやすく、逆に、段差部を現場打ちとする場合には現場での作業が多くなり工期短縮や作業効率にマイナスの影響を及ぼすという、相反する課題もありました。

■ 本工法の特徴

このたび、三井住友建設が開発した「大スパン中空段差フルプレキャスト床構工法」は、これら既往床構工法の諸問題の解決を目標としたもので、その内容は次の通りです。

① 主として内法10m以上の大スパンを適用範囲とし、実厚300mmという従来比約20%減の薄く軽い床としています。これを実現するために、たわみ制御性能の高い独自方式のPC鋼線配置(特許出願中)とすると共に、高い中空率を確保する仕様となっています。また、床段差に対応できることを基本性能とし、これにより設計の自由度を向上させることとしています。

② 昨今の社会的なニーズである高品質・工期短縮の要求に応えるために、工場ですべての断面をPCa化しています。一般的に床全断面をPCa化することは、経済性の面でデメリットとなることが多いとされていますが、本床構工法においては、PC鋼線配置・プレストレス導入・高中空率型枠設置作業・床段差部作業などを、PCa工場ですべて行い、現場作業を極力減少させて付加価値を高めることにより合理化しています。さらに、PCa工場での生産性を高めつつ高中空率を確保することを目的に、従来型の高性能遮音フォームポリスチレン中空型枠の配置を独自に改良し適用しています(特許出願中)。

③ 柱梁などの主要構造体のみならず、これまで現場でのコンクリート打設が不可避とされていた床部材までもフルPCaとすることにより、現場でのコンクリート打設を極限まで少なくすることが可能となりました。これにより、コンクリートの打設作業や強度発現に起因するさまざまな制約から現場作業がほぼ解放され、建物の品質確保をより確実にしつつ、さらに新たな施工法導入への道が開かれることになります。

三井住友建設では「大スパン中空段差フルプレキャスト床構工法」を開発するために、平成17年4月に同社技術研究所(千葉県流山市)に実物大の試験建物を製作し、施工性を確認するとともに、振動・遮音に関する試験を実施し居住性能を確認しました。この試験建物の床たわみは、現在も計測中であり、長期にわたる使用性について検証を継続しています。また、同技術研究所の構造実験棟では、実物大のフルPCa床の加力実験を実施し、破壊に至るまでの構造安全性を確認しました。
試験建物での各種試験により、振動性能・床衝撃音性能は、大スパン化・フルPCa・高中空率化することによる性能低下は見られず、在来型のスラブと同等以上の性能を保持していることを確認しました。床スラブの長期たわみに関しても、約2年が経過した現在の試験建物のたわみは、大スパン床で懸念された長期たわみに対しても従来技術と同等以上の優れた性能を有することを確認しました。

■ 技術の実施例
物件名: アーバンドック パークシティ豊洲
事業者名: 石川島播磨重工業(株)・三井不動産レジデンシャル(株)
●設計: 三井住友建設(株)
●施工: 三井住友・鹿島建設工事共同企業体
●建設地: 東京都江東区豊洲二丁目土地区画整理区域内7街区
●敷地面積: 約28,900m2
●建設概要: 52階建(A棟)・32階建(B棟)・7階建(C棟)の共同住宅3棟・駐車場棟2棟
●全体竣工予定: 2008年3月

アーバンドック パークシティ豊洲は、A棟(RC造地上52階、地下1階)・B棟(RC造地上32階、地下1階)・C棟(RC造地上7階、地下1階)の住宅棟、及びB棟付属の共用棟(S造地上7階)から成ります。 鉄筋コンクリート造超高層住宅であるA棟の基準階平面プランは、建物の外周と内周に柱梁の主要構造体を集約したダブルチューブ構造となっており、その間は住戸のプランニングの自由度を確保するため柱梁などの構造部材を極力設けない大スパンの床(約11m)となっています。
このA棟の基準階躯体施工法として、外周と内周の柱梁の主要構造部材には、現場打ちコンクリート接合部をほとんど設けない柱梁フルPCa工法であるスクライム工法を採用し、さらにこの大スパンの床に今回開発されたプレストレス中空段差床フルPCa構工法を採用しました。
この結果、基準階の躯体工事における工場製作のPCa部材の全体数量に占める比率(PCa化比率)が、型枠工事面積比率で97%、コンクリート体積比率で83%という、過去に例のない高比率となっています。
このように極限まで現場打ちコンクリートを減少させた一連のフルプレキャスト施工法の採用により、季節や日々の気象変動や労務等の社会変動など、現場特有の様々な制約条件にほとんど影響を受けることなく工事進捗が可能となり、A棟では1フロアー実質4日の施工スピードを実現し、全体工期36ヶ月で平成20年3月の竣工に向け工事中です。

A棟全景写真
A棟全景写真

A棟基準階平面図
A棟基準階平面図

■今後の展開

当社は、これまで数多くの高層・超高層RC造住宅の実績を積んでまいりました。超高層集合住宅における居住性能の向上と工期短縮・高品質化は今後とも高い社会ニーズを保持すると考えており、今回実用化した本床構工法は、従来の工法とともに、今後超高層住宅においてますます多様化する要求への一つの回答として位置づけております。
今後ともさらなる技術開発を続け、様々な社会的要求に応える構工法のヴァリエーションを追求していく方針です。

*1 スクライム工法
SQRIM=Sumitomo Mitsui Quick Rc Integration
*2 SI(スケルトン・インフィル)
建物において、変化を考慮しない構造体(スケルトン)と可変性を重視する内装設備(インフィル)
とに分けて設計施工する方式。
*3 プレストレス
鉄筋コンクリート造の曲げ材で、曲げ応力によるひびわれ・たわみの発生を防ぐために、引張り応
力が生じるコンクリート部分に鋼材を配置・緊張力を加えて予めコンクリートに圧縮力を与えること。
*4 PC鋼線
プレストレストコンクリートにおいて、プレストレスを与えるために用いる高強度の鋼線。

 

<お問い合わせ先>

三井住友建設広報室【お問い合わせフォーム】

リリースに記載している情報は発表時のものです。

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