橋梁高品質化により三井住友建設ブランドの確立へ
― "橋梁高品質化委員会"の成果と今後の展開 ―
三井住友建設株式会社(東京都中央区佃2-1-6 社長 則久 芳行)は、橋梁分野における"三井住友建設ブランド"の確立を目指して、2007年11月に則久副社長(当時)を委員長とする"橋梁高品質化委員会"を設置し(※1)、橋梁の計画段階から設計・施工プロセス全般にわたる高品質化への取り組みを展開してきました。(※2)
2年を超える委員会活動と委員会審議を受けて実施された技術開発の具体的成果は、すべての施工プロセスを通した橋梁の高品質化のみならず、総合評価落札方式案件における当社の提案技術として展開されることで受注にも貢献してきました。
当社では、今後もこの取り組みを継続するとともに、得意分野であるプレストレストコンクリート橋のさらなる競争力強化を目指す方針です。
■ 経緯
当社の橋梁技術の歴史は、我が国への長大プレストレストコンクリート(PC)橋建設技術の導入と時を同じくして始まり、半世紀にわたって架橋技術やノウハウが培われてきました。この間には我が国経済の高度成長を背景とした長大化や工期短縮などに対する社会的ニーズに、さまざまな新しい技術を開発することで対応してきました。一方、経済発展の減速に伴い、近年では品質や耐久性に対する社会的な関心が一段と高まるという変化が生じてきており、これに応えることが最も重要な課題となってきました。
このような橋梁を取り巻く環境の変化を受けて、設計・施工のみならず、維持管理までの"橋の一生"を見据えた、品質や性能あるいは機能に関する技術の高度化を目指す委員会を設置することとし、活動を行ってきました。
活動の内容は、橋の品質、性能を決定する要素である材料、設計、施工、維持管理の各々のプロセスにおいて高品質化を図る技術を検討し、必要なものは技術開発を行うというものです。
検討対象には、設計・施工によるばらつきをできる限り少なくすることを目的とする"レベル1"の技術や制度に加えて、橋梁の高機能化によってその寿命の平均値を向上させることを目指す高度な技術である"レベル2"の技術を設定しました。"レベル1"の技術・制度は、とくに大がかりな技術開発を必要としない技術や制度ですが、"レベル2"の技術は、新たな開発を必要とする技術です。
なお、竣工後に実施することになる維持管理のための技術としては、アセットマネジメントをサポートする技術を中心としています。
■ 高品質化の取り組みとその成果
[1] 計画・設計に対する高品質化の取り組み
多径間連続タイプの橋は、主桁を橋脚と剛結合する連続ラーメン構造とし支承の設置数を削減することで、建設費と維持管理費の低コスト化を図るばかりでなく、耐震性にも優れた橋梁を実現することができます。
ところが、橋脚の高さが低い場合、これまでは技術的に連続ラーメン構造を採用することができず、割高な連続桁構造を採用せざるを得ませんでした。
そこで、橋脚の高さが低い多径間連続タイプの橋でも連続ラーメン構造とすることを可能とする"掘込み橋脚方式ラーメン橋"の技術開発を行い、第二東名高速道路郡界川橋工事に技術提案し、受注しました。なお、この技術は"レベル2"の技術です。
写真-1 "掘込み橋脚方式ラーメン橋"を適用した郡界川橋工事(完成予想図)
[2] 材料に対する高品質化の取り組み
1) 低弾性高じん性セメント系複合体
連結桁タイプの橋では、一般に架設した隣り合う径間のPC桁同士を橋脚上で横桁と一体化しますが、剛結合により一体化するために連結部に大きな断面力が生じます。PC桁同士を柔らかく繋げることができれば、発生する断面力を低減できるため、隣り合う径間のPC桁の"床版"のみを連結させる構造の採用が検討されました。ところが、この構造を実現するために必要不可欠な"高じん性"と"低弾性"という特性を有する材料が実用化されていませんでした。
そこで、高いじん性とひび割れ分散性を付与するとともに、所定の強度を確保しながらヤング係数を小さく抑えることにより、部材の変形性能を大幅に向上させ、"場所打ち"にも適用できる施工性に優れた材料として"低弾性高じん性セメント系複合体"の技術開発を行い、第二京阪道路田辺パーキングエリア工事におけるPC連結桁の新しい床版連結構造に、はじめて適用しました(※3)。なお、この技術は"レベル2"の技術です。
2) 生コンデータベース
最近話題になっているコンクリートの収縮を大きくする特性をもつ骨材の事前調査や、乾燥収縮の早期判定とともに、アルカリ骨材反応を生じさせない骨材を確認する試験を全国レベルで行い、これらのデータの蓄積を図るために"生コンデータベース"を構築しており、品質の高いコンクリートの施工に貢献しています。なお、この技術は"レベル1"の技術です。
[3] 施工に対する高品質化の取り組み
1) 都市内高架橋向け最適工法提案メニュー
大規模な都市内高架橋の建設では、架橋地点によって異なるさまざまな条件を考慮しながら最適な架設工法を選択することが重要ですが、幅広い条件に柔軟に対応でき高品質な橋梁を建設できる架設工法については、標準的な選択肢が確立しているとはいえませんでした。
そこで、都市内高架橋の建設に向けた"最適工法提案メニュー"の開発を行い、第二京阪道路茄子作地区高架橋工事と青山地区高架橋工事に適用しました。
このメニューは、桁下空間が利用できるプロジェクトでもっとも経済性を発揮する"U桁リフティング架設工法"と、桁下空間が利用できないプロジェクトに最適な"後方組立方式スパンバイスパン工法"からなり、それぞれ施工の省力化を意図した部分的なプレキャスト化を行うことで急速施工を可能とし、周辺へ与える環境負荷を最小限にすることができます。
これらの工法を適用した2現場では技術者一人当たりの消化高が従来工法の約2倍という高い生産性を実証しました(※4)。なお、この技術は"レベル2"の技術です。
写真-2 "最適工法提案メニュー"を適用した青山地区高架橋工事
2) 可視光通信3次元位置自動計測システム
一方、建設現場では、施工のすべての段階で測量作業を行う必要があり、測量技術は施工プロセスのポイントです。ところが、従来の測量技術では夜間測量が困難であるばかりでなく、無人測量も容易ではなく、これらが課題となっていました。
そこで、24時間連続無人測量を行うことのできる"可視光通信3次元位置自動計測システム"を開発し、2ヶ所の工事現場に適用しました。
可視光通信とは、目に見える光"可視光"を高速点滅させることでデジタル信号を伝達する、日本発の最先端通信技術で、当社ではこの技術の建設分野への適用に向けた技術開発を、慶應義塾大学院および株式会社中川研究所と共同で進めてきたものです(※5)。なお、この技術は"レベル2"の技術です。
3) 橋梁マイスター制度
施工における品質の確保には、鳶、鉄筋工、型枠大工、PC工などの特殊能力や高い技能が不可欠な要素です。
そこで、個別技能に優れ、品質に対する意識も高い職長を"橋梁マイスター"に認定し、全作業員が将来の目標にすべき職長像を明確にすることとしています(※6)。厳正な試験と審査を経て2年間で14人が認定され、平成22年度はさらに6、7人の認定を予定しています。なお、この制度は"レベル1"の取り組みです。
[4] 維持管理および補修・補強に対する高品質化の取り組み
三井住友建設は、これまでに施工した橋梁が約3600橋あり、このうち主要な橋梁については、従来から2年に一回自主的に健全性調査を行ってきています。しかしながら、点検技術者が一定でないことによる点検水準のばらつきなどの課題がありました。
そこで、設計や施工に高度な技術を有する当社のOBエンジニアが、地区を限定して自社施工の橋梁を点検する"橋梁インスペクションエンジニア制度"をスタートさせました。
この制度では、同一橋梁の点検は同一技術者が行うこととしており、橋梁の健全性あるいは損傷度合いを統一した水準で評価することが可能になります。そして、調査の結果、健全性に問題のある橋梁があればすみやかに管理者に報告することとしています。現在は関東地区で1名、近畿地区で2名のインスペクションエンジニアが活動しており、今後も人数を増やしていく予定です。なお、この制度は"レベル1"の取り組みです。
■ 今後の展開
当社は、2年を超える"橋梁高品質化委員会"の活動を経て、橋梁の高品質化に向けた技術、具体的な手法、施策、ツールなどを数多く開発し、積極的に技術提案するとともに、実際に現場に適用してきました。現在、これらの有効性を検証しつつ継続的な改善を行うとともに、さらに新しい技術についても検討を始めており、今後、積極的に展開を図っていく計画です。
また、当社の"橋梁高品質化"の概念には"環境負荷低減"という目的も含まれており、周辺環境をできる限り保全する施工技術や、急速施工によりエネルギー消費量を削減する技術、あるいは使用材料の最少化により廃棄物の発生を抑制する技術など、環境負荷低減に資する技術の開発に取り組んでいく方針です。
(※1) 委員長:2007年11月~2010年3月 則久副社長(現社長)
2010年4月 則久社長から熊谷土木本部長に交替
(※2) 高品質化への取り組みを本格始動(2008年1月28日 NEWS RELEASE)
(※3) 低弾性高じん性セメント系複合体"を開発、新しい床版連結構造を現場で実現(2010年2月18日 NEWS RELEASE)
(※4) 都市内高架橋の建設に向け最適工法提案メニューを確立(2009年8月27日 NEWS RELEASE)
(※5) 可視光通信3次元位置計測システムを現場に適用し実用化 (2010年1月7日 NEWS RELEASE)
(※6) 初代「橋梁マイスター」の認定式を開催(2008年11月4日 NEWS RELEASE)
<お問い合わせ先>
リリースに記載している情報は発表時のものです。