世界で初めて支間100mを超えた曲弦形式PC橋が完成

― (仮称)大簾川(おおみすかわ)橋 ―

■ 概要

三井住友建設株式会社(東京都中央区佃2-1-6 社長 則久 芳行)は、京都府から受注し施工を進めていた、吊床版架設工法を応用して建設する曲弦形式PC(プレストレストコンクリート)橋である(仮称)大簾川橋を完成させました。

当社は、吊床版架設工法を応用して架設し構造系を自碇構造に変換して完成させる曲弦形式PC橋を開発し、2001年に世界で初めて建設して以来、我が国の橋梁として初めてfib(国際コンクリート連合)最優秀賞を受賞した青雲橋を2004年に建設するなど、このタイプの橋梁建設のパイオニアとして技術開発を重ね、技術ノウハウと実績を積み上げてきました。

(仮称)大簾川橋は、この架橋技術を結集して建設を進めていた曲弦形式PC橋で、このタイプの橋梁として世界で初めて支間100mを突破しました。

吊床版架設工法を応用して建設する曲弦形式PC橋は、架橋地点の自然環境に影響を与えずに建設できるという優位性をもっており、当社では生物多様性保全に向けた社会的ニーズに応えることのできる工法として、さらなる展開を図る方針です。

写真-1 (仮称)大簾川橋の全景
写真-1 (仮称)大簾川橋の全景

■ 経緯


写真-2 ひぐらし橋

写真-3 亀甲橋

写真-4 潮騒橋

写真-5 巌門園地園路橋

写真-6 青雲橋

写真-7 青春橋

当社は、かねてから吊床版橋の優位性に着目し技術開発を進め、その成果として1987年に直路式吊床版橋であるひぐらし橋を初めて建設しました。

当社では、ひぐらし橋の建設を契機に、その後多くの直路式吊床版橋を建設しながら、さらに技術開発を推進し、1991年には世界で初めての三方向分岐吊床版橋である亀甲橋を建設しました。この亀甲橋はFIP(現在のfib、国際コンクリート連合)の特別賞を受賞するなど、国際的にも大いに注目を浴びました。

一方、当社では多くのメリットを有する上路式吊床版橋の技術開発も展開し、1995年に世界で初めての多径間連続上路式吊床版橋である潮騒橋を完成させました。潮騒橋建設の経験から架設ノウハウを蓄積するとともに、技術的課題を抽出して、さらに技術開発の進展を図り、吊床版架設工法を応用して架設し構造系を自碇構造に変換して完成させる曲弦形式PC橋である巌門園地園路橋を、2001年に世界で初めて建設しました。

吊床版架設工法を応用して建設する曲弦形式PC橋は、直路式吊床版橋や上路式吊床版橋と異なり、吊床版の引張力を地盤に伝達・定着させる必要がなく、架橋地点の地盤条件に左右されずに採用することができるため、適用性が広いという特徴をもっています。

当社では、吊床版架設工法を応用して建設する曲弦形式PC橋の技術開発をさらに続け、2001年に支間93.8mの青雲橋を完成させました。青雲橋は、fib最優秀賞を我が国の橋梁として初めて受賞し、当社の曲弦形式PC橋建設技術が国際的にも高い評価を受けることとなりました。
さらに、当社では上路式吊床版橋や曲弦形式PC橋の架設時における横方向の安定問題を解決するための技術開発を行い、そのコンセプトを2006年に世界で初めて青春橋で実現させました。

このように、吊床版架設工法を応用して建設する曲弦形式PC橋に関する当社の架橋技術を結集して建設した橋が、このたび完成した世界最大の曲弦形式PC橋である(仮称)大簾川橋です。

■ (仮称)大簾川(おおみすかわ)橋の概要

(仮称)大簾川橋は、京都府の綾部市と京丹波町の間に位置し、由良川左岸地域において綾部市と京丹波町を結ぶ唯一の道路である府道広野綾部線のバイパス整備事業の一環として、一級河川由良川の支流である大簾川を渡る地点に建設されたプレストレストコンクリート(PC)橋です。

橋梁形式の選定に際しては、大簾川両岸の発達した急峻地形・自然景観に富む立地条件を考慮し、谷間に支保工などを設ける必要がなく環境保全に対して有利であり、施工期間の大幅な短縮も可能な吊床版架設工法による曲弦形式PC橋が採用されました。

吊床版架設工法による曲弦形式PC橋としては、2001年に当社施工により完成した支間93.8mの青雲橋が最大支間を誇っていましたが、本橋が世界で初めて支間100mの壁を突破しました。

工事名:府道広野綾部線地方道路交付金工事((仮称)大簾川橋上部工)
発注者:京都府
施工場所:京都府船井郡京丹波町広野地内
橋 種:道路橋 (第3種第4級)
橋 長:111.0m
支 間:107.5m
有効幅員:7.0m (総幅員 8.2m)
荷 重:B活荷重


図-1 (仮称)大簾川橋の一般図

図-2 断面図

 

■ 施工の概要

本橋の施工は、これまで潮騒橋などの上路式吊床版橋や、巌門園地園路橋、青雲橋、青春橋などの曲弦形式PC橋の建設により、当社が蓄積してきた吊床版架設工法に関するノウハウを結集することに加えて、支間100mを超える吊床版架設ではじめて顕在化する施工上の課題をクリアできる施工技術も採り入れて行いました。

吊床版架設工法による施工は、他碇構造を成立させるために、橋台とグラウンドアンカーの施工を行った上で、吊床版1次ケーブルの張り渡し、吊床版セグメントの懸垂架設、鋼斜材の架設、上床版セグメントの送り出し架設、間詰めコンクリートの施工と進め、橋体を概成させました。 施工の最終段階で、構造系を他碇構造から自碇構造に変換し、橋体を完成させました。

PHASE 1 吊床版1次ケーブルの架設

PHASE 1 吊床版1次ケーブルの架設

PHASE 2 吊床版セグメントの懸垂架設

PHASE 2 吊床版セグメントの懸垂架設

PHASE 3 鋼斜材の架設

PHASE 3 鋼斜材の架設

PHASE 4 上床版セグメントの送り出し架設

PHASE 4 上床版セグメントの送り出し架設

PHASE 5 間詰めコンクリートの施工、構造系変換

PHASE 5 間詰めコンクリートの施工、構造系変換

図-3 施工方法

写真-8 吊床版セグメントの架設
写真-8 吊床版セグメントの架設
写真-9 鋼斜材の架設
写真-9 鋼斜材の架設

本橋は、吊床版架設工法による曲弦形式PC橋としてはじめて支間100mを超えることから、施工に先立ってさまざまなシミュレーションを行い、顕在化する可能性のある課題の抽出を行いました。課題の一つが部材架設時において障害となるケーブルの大きな変位(たわみ)であり、これをクリアするために"吊床版変位制御工法"を実用化し現場に適用することとしました。この工法により、吊床版セグメント、鋼斜材、上床版セグメントの架設を、安全に、短時間で完了させることができました。

■ 今後の展望

(仮称)大簾川橋で採用された吊床版架設工法による曲弦形式PC橋は、架橋地点の自然環境に影響を与えずに建設できることのほかに、コスト的にも優位性があります。

我が国における山岳橋梁は未だ整備が不十分であり、潜在的ニーズは大きいと言われています。このニーズに対して橋長100m程度までであれば、このタイプの橋梁は優位性を十分発揮することができます。
当社では、曲弦形式PC橋を、生物多様性保全に向けた社会的ニーズに応えることのできる橋梁として、最適な架設方法とともに、今後も積極的に技術提案していく方針です。

 

<お問い合わせ先>

本件についてのお問い合わせは、下記までお願いいたします。

〒104-0051
東京都中央区佃二丁目1番6号
三井住友建設株式会社
広報室 平田 豊彦
TEL 03-4582-3015 FAX 03-4582-3204
e-mail : information@smcon.co.jp

【参考 1】 吊床版橋と曲弦形式PC橋について

1. 吊床版橋

吊床版橋には、直路式(ちょくろしき)吊床版橋と上路式(じょうろしき)吊床版橋があります。
直路式吊床版橋は、張り渡した吊床版の上をそのまま人や車が通れるようにした橋です。
上路式吊床版橋は、吊床版の上に鉛直材などを介して路面となる上床版を載せた構造の橋で、鉛直材の長さを任意に設定して縦断線形を水平にすることができるため、道路橋への適用が容易なことなどのメリットを有しています。
これらの吊床版橋では、構造を成立させるために、吊床版に生じる引張力をグラウンドアンカーなどにより地盤に伝達・定着させる必要があります。これは他碇構造と呼ばれています。

2. 曲弦形式PC橋

当社では、上路式吊床版橋を発展させたコンクリート橋として、吊床版系の自碇式(じていしき)吊床版トラス橋、および張(ちょう)弦(げん)桁(げた)系の張弦桁橋、張弦トラス橋、二重張弦桁橋などを開発しており、これら曲線状に配置した引張部材で桁を下方から支持するプレストレストコンクリート(PC)橋を総称して曲(きょく)弦(げん)形式PC橋と呼んでいます。
自碇式吊床版トラス橋は、吊床版の上にトラス斜材を介して主桁(上床版)を載せ、吊床版の引張力を主桁に取らせる自碇式曲弦構造の橋です。吊床版の引張力を地盤に伝達・定着させずに、主桁に定着させる方式は、自碇式と呼ばれています。実績には、このたび完成した(仮称)大簾川橋のほかに巌門園地園路橋があります。
張弦桁橋は、主桁の下方に鉛直材を介して張弦ケーブルを張った自碇式曲弦構造の橋です。吊床版がなく張弦ケーブルのみが配置されます。実績には、あゆみ橋があります。
張弦トラス橋は、主桁の下方にトラス斜材を介して張弦ケーブルを張り渡した自碇式曲弦構造の橋で、コンクリート部材で補剛した張弦材を、トラス斜材を介して主桁の下方に張り渡したタイプが青雲橋で実用化されています。コンクリートの張弦材は吊床版と似ていますが、幅が小さいことが異なります。
二重張弦桁橋は、張渡しケーブルを用いて主桁セグメントを懸垂架設し、張弦ケーブルを架設・緊張した後、自碇構造に変換して完成させる張弦桁橋です。実績には、青春橋があります。


参考図-1 上路式吊床版橋と曲弦形式PC橋

【参考 2】 本橋で開発した"吊床版変位制御工法"について

本橋は、吊床版架設工法による曲弦形式PC橋であり、架設時の構造は吊橋や吊床版橋と同じ吊構造です。

吊構造は、荷重が支間全長にわたり等しく分布して載荷された場合(等分布荷重)はそれほど大きな変位(たわみ)は生じませんが、支間の一部分のみに載荷された場合(偏載荷重)は、載荷された位置が大きく変位する(たわむ)という特性をもっています。

本橋のような曲弦形式PC橋を吊床版架設工法で施工する場合、吊床版・上床版のプレキャストセグメントや鋼斜材の架設段階で、これらの部材を支間の一部に偏って置かざるを得ない状況が必ず生じます。
この部材偏載による大きな変位は、中小規模の曲弦形式PC橋の架設では、施工上問題になることはありません。
しかしながら、支間100mを超える本橋では、施工に先立って実施した構造解析により変位が過大になることを確認し、当社のこのタイプの橋梁の施工ノウハウを基に検討した結果、何らかの変位抑制対策を施すことが必要不可欠との技術的判断に至りました。

そこで本橋では、プレキャスト部材や鋼部材を架設する際の変位を制御する"吊床版変位制御工法"を実用化し、現場に適用することとしました。

この工法は、(1)まず初めに複数のセグメントを支間中央に対して対称になるように仮セットすることで、吊床版ケーブルに引張力を与えて、後からセグメントを設置する際にたわみにくくしておき、(2)次にA2橋台方向へセグメントを所定位置に移動させて架設を進め、(3)これに合わせて A1橋台側からセグメントをクレーンで追加し中央部に移動させて仮セットし、全体系のバランスをとりながら架設を進める工法です。

当現場においては、この工法を採り入れたことで、吊床版セグメント、鋼斜材、上床版セグメントの架設を、安全に、短時間で完了させることができました。


参考図-2 吊床版変位制御工法の概念

 

<お問い合わせ先>

三井住友建設広報室【お問い合わせフォーム】

リリースに記載している情報は発表時のものです。

一覧ページへ