『 写震器 』 を開発

─ 余震に対する建物健全性を遠隔評価 ─

三井住友建設株式会社(東京都中央区佃二丁目1番6号 社長 則久 芳行)は、大地震のあとの建物の余震に対する健全性を遠隔で評価するシステム「写震器」を開発しました。

このシステムは、建物の地震時の損傷の程度を知るうえでもっともクリティカルになる代表的な部位を定めておき、その代表点の地震時の挙動をカメラによって光学的に追跡するというものです。地震時に記録された代表点の挙動とあらかじめ数値化しておいた損傷限界とを比較することによって、被災した建物の外部から建物全体のその後の余震に対する健全性を自動的に判定するものです。

また、このシステムの主たる機能が地震時の建物の動きをそのまま写すことから「写震器」という愛称で呼ぶことにしており、すでに当社が設計施工を請け負った株式会社ロッテ浦和工場に設置し運用を開始いたしました。

■ 経緯

東日本大震災のあと当社は、生産の早期再開が強く望まれていた製造業の企業のお手伝いを各所でいたしました。この中で一番要望が多かったのは、被災した建物の内部に立ち入ってよいかどうかを聞かれたことです。生産再開のためには製造ラインや製造設備の点検をしなければなりませんが、そのためにはまず、余震の心配があるなかで被災した建物の内部に立ち入れるかどうかを判断する必要がありました。

一方で、このようなご要望に応えるにはいくつかの課題があります。

現行の耐震基準に基づいて設計された建物の耐震性能は、建物供用期間に極めてまれに発生するような大地震に対しては建物の崩壊を防止し人命を保護するという水準にありますが、一般には、被災したあとの余震に対する性能まで考慮して設計されることはありません。しかも地震後の建物の外観からは実際に本震として作用した地震動の大きさを知ることはできないため、建物がどの程度まで被災したかを理解するには、相当の時間をかけ、専門的な知識に基づいて調査しなければなりません。そのうえ被災し損傷した建物がその後の余震に対してどのような性能を示すかは設計では明らかにしていませんから、実際には2次災害の危険性があるなかで、一般の人々が最大級の地震を経験したと思われる建物の内部に立ち入ることが可能かどうかを知ることは容易ではありません。

そこで、BCP(事業継続計画)の観点から、大地震のあとの製造ラインの早期復旧に貢献するために、余震に対しての建物の健全性を手軽に知ることのできるシステムを開発いたしました。

■ システムの概要

三井住友建設はこのような課題に対して、

  • 現行耐震基準によって設計された建物が余震に対しても健全であるための被災レベルの設定
  • 地震時の実際の建物挙動の遠隔監視と記録
  • 被災建物の余震に対する健全性のレベルと監視結果との照合および判定

の3つを特徴とする建物の対余震健全性評価システムを開発しました。

同システムの遠隔監視の方法は、動態追尾のソフトを備えたCCDカメラなどの光学的な装置が特定のターゲット(一定の照度を有する光源など)の動きを追跡しその軌跡を記録することによるものです。1秒間におよそ50~100データを0.5ミリ単位で記録することができ、そのデータはLANを利用する方法や、クラウド上のサーバを利用して収集するほかいくつかのオプションを用意しています。

収集したデータは、あらかじめ準備してある判定基準と即座に照合し、余震に対する健全性を評価することができます。なお、非常時のバッテリーを付属しており、停電時にも30分の記録ができます。これらを維持するための電気料金は月に数百円ほどになります。また、CCDカメラを用いた場合には常時は工場内部の監視用に充てることもでき、その場合には一定の揺れ幅が生じたとき自動的にターゲットを追跡するように画像を切り替えることとすることもできます。

なお、これらの主要機器は既製品を用いていますので、余震に対する建物の性能の判定のための解析費用を除いて、主要機器や情報回線の準備およびその据付に要する費用をきわめて安価に抑えることができます。

■ 従来の方法との相違点

これまで地震被害を推定する仕組みは、加速度データを用いることが主流でした。しかし、建物の被害状況を知るためには、加速度により得られた揺れ具合を建物各部の変形状態に読み替える必要があります。

しかし、その間の手順には建物の振動モデルを介在させることになりますが、建物の重量や揺れにくさを表す物理量にはばらつきがありますので、必ずしも得られた加速度と各部の実際の変形が正しく対応するとは限らないという不都合がありました。

これに対して、「写震器」では、文字通り震動による対象部位の軌跡をそのままカメラで写すので、被害の状況を把握するための建物主要部の変形状態を光学的に直接知ることができます。

■ 今後の展開

当社は今後、地震後の早期操業再開を必要とする製造業を中心にしてBCPのサポートの一環として本システムの導入を図っていくことにしております。

また、新築計画以外の場合には既存建物の耐震性能を確認し、必要に応じて然るべき減災措置を施したうえで本システムを適用するように提案していく予定です。

 

<お問い合わせ先>

三井住友建設広報室【お問い合わせフォーム】

リリースに記載している情報は発表時のものです。

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