「軍艦島」を対象とした構造物「ヘルスモニタリングシステム」の実証運用を開始
―ワイヤレス振動センサにより、遠隔地からの構造物の常時モニタリングを実現―
三井住友建設株式会社(東京都中央区佃二丁目1番6号 社長 新井 英雄)は、「明治日本の産業革命遺産」のひとつとして世界文化遺産に登録されている長崎市端島、通称「軍艦島」において、日本最古の高層鉄筋コンクリート造建築物に対する「ワイヤレス振動センサによるヘルスモニタリングシステム」の設置、実証運用を開始しました。
【センサを設置した鉄筋コンクリート造建築物(30号棟)、長崎市端島】
この取り組みは、長崎市と共同し、東京大学地震研究所 楠 浩一教授の助言を受け実施したものです。産業革命遺産としてその保全の重要性が高まる「軍艦島」内の30号棟(日本最古の高層RC造住宅;1916年築造)に対して、「ワイヤレス振動センサによるヘルスモニタリングシステム」により微細な揺れの常時監視(モニター)を行い、建物の異常を検知させる試みです。30号棟は補修による保存が困難と考えられており、倒壊の危険性の検知を目的とした常時監視を開始しました。振動センサにはワイヤレスで離れた場所からの常時モニタリングを可能とするシステムを適用しています。
■ 採用した「ヘルスモニタリングシステム」の特長
構造物の振動には、その構造物の揺れやすさの特徴が潜んでいますが、本システムでは、その微小な揺れを高感度な振動センサ(加速度計)で常時計測し、クラウドに随時アップロードします。そこで得られた特徴量(固有振動数や振動モードの統計値)を、常時監視(モニター)し、何らかの異常が生じた場合は瞬時に検出して閾値を超えた場合にはアラートを発報します。採用しているセンサは従来のものよりも高精度であるため、今まで計測ノイズに埋もれていたわずかな変化も検知可能です。センサノードは省電力設計によりバッテリーで長期間の駆動を実現しています。従来の地震観測同様に、トリガー機能(センサノードのウェイクアップ機能)を有しており、地震時のデータを逃しません。
本システムは、東京大学発ベンチャーであるソナス株式会社が保有のマルチホップネットワークによる計測システムを構造物の計測用として共同で開発したものです。
■ 取り組みの経緯
これまで、施工中~竣工後の構造物の状態は、原則として目視など人による点検で調べるしかありませんでした。しかし、既設インフラの老朽化、技術者不足といった社会背景のもとで、このような人海戦術での保守点検に頼ったスキームには、抜本的な変革が必要とされています。
殊に、大地震発生時には、多数の構造物が同時にその被害を受けることから、限られた技術者による点検には数日から数週間の期間を要します。緊急輸送を支える社会インフラ(たとえば橋梁)や、防災拠点となる官庁舎などの非常時に重要な機能を求められる建築物は、地震による被災後すぐに使用可否の判断を迅速に行いたいというニーズがあります。そのためには、「正常」な状態を常に監視することで、何らかの「異常」が生じたことを検出する合理的なロジックが必要とされていました。
こうした中、明治から昭和にかけて建設された「軍艦島」の建築物群は劣化が進行中で、構造物の劣化の兆候が計測から得られることが期待されています。当社では2016年、長大橋梁のようなインフラ構造物のモニタリングをターゲットに、完全ワイヤレス化のシステム開発に着手しました。完全ワイヤレス化により通信・電力ケーブルの設置が不要で、省電力設計およびマルチホップネットワークによる計測データの収集により、長大橋梁の橋脚下端・主桁全長の広範囲を一括した常設モニタリングを容易に実現することを可能にしました。2017年に複数の実橋梁へ設置、橋梁全体のモニタリングを開始し、検証を重ねてきました。今回の「軍艦島」での採用によって、老朽化が進む建築構造物への適用も実現しました。
■ 今後の展開
本システムの導入は、「はし」(橋梁)や「まち」(建築物)、すべての構造物に適用可能なインフラ維持管理プラットフォームの構築に向けた取り組みの一環です。設置を完了した構造物から得られたデータを分析することで、損傷判定(倒壊判定)を行うなど状態を把握、判定する合理的なロジックの確立に向け、更なる開発を進めてまいります。
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