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このたび、社長に就任しました柴田敏雄です。

2023年度の業績は、売上高・利益ともに前期を上回り、3期ぶりの黒字となりました。建築事業において追加の損失を計上した結果、建築の利益は公表値を大きく下回ってしまったものの、土木事業の利益や海外事業の売上高・利益において過去最高を達成するなど、業績の回復に向けて力強い手応えを感じています。

国内土木事業では、国土強靱化や老朽インフラ更新に関連した工事が堅調であり、能登半島地震に関連した復興工事も始まるなど、しばらく業績は順調に推移すると見込んでいます。2023年度は、高速道路橋の大型リニューアル工事をはじめ大規模更新工事の受注が伸びました。一方、技術力を鍛えていくためには新設工事の獲得も重要であり、当社が得意とする橋梁やトンネルなどでの受注に力を注いでいきたいと考えています。また、ECI方式※1 をはじめ新しい入札形態にもチャレンジしています。

国内建築事業のうち多額の工事損失が発生した国内大型建築工事に関しては、外部の有識者が参画した調査委員会により原因究明と再発防止策を策定、特別対応チームを組成して全社を挙げて支援しており、施工も順調に進捗、上棟して仕上げ工事の段階にきています。国内建築事業全体では市場は今後も堅調に推移すると見込んでいますが、受注量を抑制して良質な受注環境の維持向上を堅持して利益改善に向けた施策を徹底しているところです。現在は、来期以降の優良工事獲得に向けた受注ポートフォリオの構築を検討しています。

2023年度に売上・利益ともに過去最高を達成した海外事業については、当社の成長ドライブと位置付けています。特にインドでは早くから進出して日系建設企業としてはトップクラスの実績を有しており、今後も日系企業の進出が加速することから、最も力を入れていくつもりです。現在、海外の建築事業では、日系企業の現地工場が主力となっていますが、シンガポールやタイでは日系企業の進出がシュリンクしており、今後は、非日系企業や工場以外の案件もターゲットにして体制強化を図っていきます。一方、土木事業ではODA関連が中心であり、現在はフィリピンやインドネシア、バングラデシュなどで鉄道橋や地下鉄の大型プロジェクトが進行中です。今後は、他のアジアの国々、さらにはアフリカ地域も視野に入れ、さらに脱ODAの一環としてのエネルギー関連などの案件についても、カントリーリスクなども十分に考慮しながら積極的な事業拡大を図っていきます。

  • ※1 Early Contractor Involvement方式。プロジェクトの早い段階から建設会社の技術力を設計内容に反映させる発注方式のこと

人材確保・育成は最優先すべき取り組みテーマ
現場力の回復に向けた支援、強化策を推進

建設市場は、国内・海外ともにしばらくは堅調に推移すると見込んでいます。一方、懸念すべきリスクを挙げるとするならば、やはり少子高齢化による労働力不足でしょう。既に建築分野では設備工事などで顕在化し始めており、今後は工事の需要はあっても労働力不足のために引き受けられないという事態が起こる可能性もあり、これは当社ばかりでなく建設業界全体の課題と捉えています。さらに、高齢化や人口減少とともに中長期的には国内の建設市場は縮小すると予測されており、海外事業の拡大は、当社が持続的な成長を果たすために不可欠な戦略で、現在21.5%(2023年度)である海外売上高比率を近い将来25%、最終的には30%まで高めていきたいと考えています。

特に人材の確保・育成は当社にとっても極めて重要な課題で、最優先で取り組むべきテーマだと考えています。当社の社員構成を見ると、いわゆる中堅となる層が薄いという傾向があり、このような弱みを克服して現場力を強化するために、若手社員の早期育成体制を充実させていきます。また、経験豊富な社員が培ってきた知見をいかに承継するかも忘れてはならない問題です。もはや、私たちが経験してきたような「背中を見て育つ」時代ではありませんので、若い世代にマッチした仕組みづくりを考えていかなければなりません。また、成長が期待される海外事業を拡大していくためには、グローバル人材の確保・育成が鍵を握ります。土木分野においては国内・海外の間で人材の循環がある程度確立されているのですが、建築分野においてはこれからという段階です。当社では、グローバルな人材開発センターであるHDC※2 をフィリピン、インド、タイ、インドネシアに展開しており、今後はHDCを拠点としたグローバル人材育成にさらに注力していきます。また、国内大学からの外国籍人材の採用、それに加え最近ではフィリピンやミャンマー、バングラデシュなどの大学からの直接採用も導入しています。このようにして採用が決まった外国籍人材の日本語教育にもHDCを活用しています。

2024年4月から始まった時間外労働の上限規制については、前倒しで施策を進めてきたこともあり、現在のところ順調に対応できています。しかし、当社の最前線となる現場にはさまざまな課題が潜在しており、この規制を前向きに捉えて改革を推し進めています。現場での煩雑な管理業務をアウトソーシングする仕組みを導入し、工期の厳しい現場などに対しては本店・支店の社員がサポートする体制づくりを取り入れています。また、DXの推進も欠かせない戦略であり、BIM/CIM※3 の導入をはじめ、タブレット端末を利用した遠隔検査システムの展開などの施工監理のDXも推進しています。

  • ※2 Human Resource Development Center
  • ※3 計画、調査、設計段階から3次元モデルを導入して情報共有を容易にし、効率化・高度化を図る仕組み
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新東名高速道路 山北皆瀬川工事

サステナビリティは新たなビジネスチャンス
多様な社員がさまざまな働き方ができる職場に

サステナビリティへの取り組みは、企業価値を高めるばかりでなく、当社が新たな成長を果たしていくためのビジネスチャンスであると捉えています。なかでも私が鍵を握ると考えているのがエネルギー関連のビジネスです。

当社は水上太陽光発電に先駆的に取り組み、独自に開発した太陽光発電用フロートによるため池などでの発電事業を全国8カ所の淡水域で運営しています。さらにその適用水面を広げるために、東京湾において、国内初となる洋上での浮体式太陽光発電の実証実験に取り組んでいます。一方、将来大きなマーケットとなる洋上風力発電については、仏国BWIdeol社が国内で進めるプロジェクトに参加し、当社が得意とするプレキャスト製造技術を活かしたコンクリート製浮体基礎による事業性評価に参画しています。そのほか、次世代エネルギーとして期待される水素についても注視しており、当社のプレキャスト製造工場において水素の製造・貯蔵設備を試験導入しました。また、この水素のキャリアとして当面の間有力視されているアンモニアの貯蔵タンクに関しても検討を行っているところです。このほか、CO₂排出量削減のScope3に寄与する超高耐久のプレキャスト床版(「Dura-Slab®」)や環境配慮型コンクリート(「サスティンクリート®」)など、さまざまなサステナブル技術の開発を進めています。これらの取り組みでは、社会的価値と経済的価値のバランスの見極めが重要になります。絶えず社会の動きに目を配り、機動的な投資を行っていきます。

次に、当社では、2023年に「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)ポリシー」を策定しました。現在、この方針を基軸としてさまざまな施策を展開しています。女性活躍については、採用および管理職登用に力を入れるとともに、現場での環境整備を進めてきたことで、着実に成果に結びつきつつあり、社員たちの意識にも変化が見られます。今後、注力すべき課題として、女性社員がライフイベントの変化に合わせて多様な働き方・職場を選択できる制度づくりが挙げられます。また、親の介護や自身の病気などは女性社員だけに限られるものではありませんし、育休を取得する男性社員も増えてきました。性差や世代、国籍などにかかわらず多様な社員がお互いに尊重し合いながら働き続けられる環境を整えていきます。D&Iを浸透・実践していくためには、管理職層の意識変革も大切な取り組みとなります。ハラスメントなどはけっして起こしてはなりませんが、同時に組織の規律を守って運営していくリーダーシップは必須です。このトレードオフ問題を解決しながら、フラットで風通しのよい組織風土を醸成していきたいと思っています。

サステナビリティ経営を実践していくためには、コーポレートガバナンスの強化も継続して取り組んでいくべき重要なテーマです。2024年6月の株主総会で、取締役2名、社外取締役3名が新たに選任されました。新任の社外取締役は企業経営トップ経験者が2名、女性が1名で、今後の当社の成長に向けた適切なアドバイス、ガバナンスの強化に向けた指導を期待しています。

もう一つ忘れてはならないのが、現場における安全と品質の徹底です。近年、現場での労働災害が増加しており、顕在化していないものを含めるとかなりの案件数にのぼっていると実感しています。その要因の一つとして挙げられるのが、協力会社の作業員の高齢化、多国籍化です。今後は安全管理への意識を徹底する一方で、エイジフレンドリーな防止対策を取り入れ、現場でも多様な人材が活躍できる環境づくりに取り組みます。また、安全に関わる情報を共有するために、過去の災害事例をデータベース化したAI安全注意喚起システムの運用を促進し、現場での指導や管理に活用していきます。

収益の源泉、「現場」の回復・強化に全社を挙げて取り組む

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私は1985年に入社後、これまで主に土木事業部門でキャリアを重ねてきました。土木の現場勤務は入社後4年程度でしたが、私にとっては原点ともいえる貴重な経験でした。その後、永らく設計業務に携わりました。今振り返ると、転機となったのは2012年から7年間務めた土木技術部長の時代だったと思います。土木のあらゆる案件に深く関わり、公共工事の入札の際に当社が提出する技術提案書を7年間で1,000件近く査読しました。ゼネラリストとしての視点が養われたことに加えて、「大局観」を意識するようになったのも、この頃からだったように思います。この「大局観」は、多少の犠牲は受容して全体を俯瞰して勝つ、という囲碁から学んだ教えで、仕事においても欠かせない視点であり、社長という重責を担うことになった今、あらためてその大切さを意識したいと考えています。いつでも「現場」に軸を置きながら、「大局観」を持って当社の経営に取り組んでいきます。

私が、社長に就いて社員たちにまず最初に語りかけたのは「現場への回帰」です。言うまでもなく、総合建設会社である当社の収益の源泉は「現場」にあります。しかし最近、この現場力が停滞しているように感じています。これまで多くの社員たちが培い受け継いできた現場力を回復・強化させ、その現場を社員みんなでサポートしていく意識をあらためて共有したいと考えています。当社は、もともと建設業界の中でもオープンで自由闊達な雰囲気を特徴とする企業だと私は思っています。今再び新しい風を吹き込み、明るく意欲を持って仕事に取り組んでいける環境を回復させることも、私の大切な役割だと思っています。

私は、社長就任にあたってお客さまをはじめたくさんの企業を訪問しました。その際に数多くの期待と励ましの言葉をかけていただき、当社に対する信頼の厚さと長年の歴史をあらためて実感しました。これからは株主の皆さまをはじめ、ステークホルダーとの会話を積極的に重ね、共に未来へと歩んでいく関係づくりに力を注ぎます。現場を起点にし、そして高い視線で未来を見据え、社員たちと一緒に新たな成長を目指していきたいと思っています。

2024年10月
代表取締役社長

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