風力発電タワーの新構造開発

―高さ70mクラスを1週間程度で施工、高さ100mクラスも可能に―

三井住友建設株式会社(東京都新宿区荒木町13-4、社長 友保 宏)は、これまでに主にPC(プレストレストコンクリ-ト)橋梁の分野で蓄積したPC技術をさらに発展させ、大型風力発電機の支持構造物として、外ケーブル方式のプレキャストPCタワーを開発しました(特許出願中)。

【開発の背景】
近年、地球環境問題に対する関心が高まる中、環境負荷の少ないクリーンエネルギー源の一つとして風力発電が注目されています。国内では既に160程度の風力発電施設が建設されていますがその発電量は50万kw未満にとどまっています。資源エネルギ-庁総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会の報告書(H13.6月)に掲げられた「2010年までに300万kw」という導入目標に対して、今後さらに建設が推進されるとともに、より高い発電効率追求のため、洋上への進出や発電機の高性能化・大型化と合わせて発電タワーの更なる高度化が図られるものと考えられます。
国内では大型の風力発電タワーが既に500基以上建設されていますが、一般にその構造は中空円筒形(モノポール構造)です。日本国内での実績は鋼製パイプ形状・現場継手による構造がその殆どを占めています。将来の発電タワーの大型化を考慮した場合、鋼製断面の場合では、曲げ変形の局部座屈によるタワーの損傷や繰り返し荷重による溶接部の疲労破壊などが懸念されます。
当社は、これまでに主にPC橋梁の分野で蓄積したPC技術をさらに発展させ、将来の風力発電タワーの大型化を念頭に、プレキャストコンクリート製風力発電タワーの開発を行いました。

【新工法の特徴】
今回の新工法は、高強度コンクリート製の円筒形プレキャスト部材(セグメント)を積み重ねてタワーを構築するもので、セグメントの接合を外ケーブル方式のプレストレス導入によって行うことを最大の特徴としています。タワーをコンクリート構造にすることで高い剛性や耐久性を持たせることができ、変形や振動などの問題を軽減し、局部座屈や溶接部の疲労破壊の懸念が解消されます。またコンクリートタワーをプレキャスト化することによって現場作業期間を大幅に短縮しており、高さ70mクラスのタワーを1週間程度で架設することが可能です。将来のタワーの大型化に対しては断面を円周方向にも分割することができ、これにより高さ100mクラスのプレキャストコンクリートタワーへの対応も可能です。

【プレキャストコンクリート製風力発電タワーの概要】

1.構造概要
タワー全体の構造は中空円筒形(モノポール構造)です。
プレキャスト製の中空円筒形コンクリート部材(セグメント)を積み重ねて、プレストレスにより一体化させることで風力発電機の支持構造物としてのコンクリート製タワーを構築します。
コンクリート部材にプレストレスを与えるためにはPC鋼材を配置・緊張しますが、本工法ではこのPC鋼材をコンクリート断面外(円筒部材の内側)に配置する「外ケーブル構造」としています。このPC鋼材には防錆・被覆処理したものを使用します。
外ケーブルの定着は、円筒セグメントの内側に定着用のコンクリート突起を設けて行います。
セグメントとセグメントの接合面はずれ防止等のための「キー」を設けますが、接着剤等を使用しないドライジョイントとしています。
このような外ケーブル構造によるプレキャストコンクリート製風力発電タワーの構造的・施工的特徴には次のようなものが挙げられます。

(1)耐 久 性: コンクリート製であるため沿岸部など厳しい環境においても耐久性に優れ ています。

(2)高 剛 性: 鋼製に比べてタワー本体の剛性が大きく、変形・振動による問題(タワー 本体や発電機に与える影響など)に対して有利です。また鋼製タワーで懸 念される溶接部疲労や局部座屈などが解消されます。

(3)プレキャスト化: 高品質・高精度な部材製作が可能であるとともに、コンクリートタワ ーで課題となる架設工期を大幅に短縮できます。また外ケーブル構造 であるため使用期間が経過した後のタワー解体・撤去が容易かつ安全に行えます。

(4)外ケーブル構造: プレストレス導入方法を外ケーブル構造とすることにより、架設作業 において緊張作業がクリティカルとならずに架設期間の短縮に貢献し ます。

(5)メンテナンス性: プレキャストコンクリート構造自体が耐久性に優れています。また、 外ケーブル構造によりPC鋼材の保守・点検を含めたメンテナンス性 が高い。

(6)そ の 他:
・鋼製と同程度のコスト及び構造寸法での構築が可能です。
・建設後PC鋼材の追加配置により耐力増加を行うことが可能です。 タワーはそのままで発電機の取替え(大型化のための取替→塔頂の 荷重増加)なども想定できます。
・外ケーブル構造+プレキャスト製であるため使用期間終了後に解体 すると架設前の状態となり、場合によっては新たに再利用を考える こともできます。

 

2.構造設計例

国内最大規模の1.7MW相当の風力発電機(タワー高さは約60m)を想定した試設計結果を示します。
タワーは23個の円筒形プレキャストコンクリートセグメントにより構成されます。セグメントの外直径は下部で3.5m、上部で3.0m。コンクリート厚は25cm。1つのセグメントの長さは運搬・架設を考慮して重量を抑えるために、2.2~2.4mとしています。
構造検討の規準として、長期荷重に対しては接合部の目開きを許容しないフルプレストレス状態(全段面圧縮状態)として部材およびPC鋼材本数の設定を行っています。また暴風時、地震時等の短期荷重に対しては若干の接合部目開きを許容し、コンクリート圧壊およびPC鋼材の降伏を照査することで安全性を確保しています。
また、より規模の大きな発電機およびタワーを想定する場合にはタワー部材断面が大きくなりますが、タワー円周方向にセグメントを分割することによりタワー高さ100mクラスにおいても対応が可能です。

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三井住友建設広報室【お問い合わせフォーム】

リリースに記載している情報は発表時のものです。

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